ベランダと庭で見る

家から見える範囲と、周りの明かりの避け方。

ベランダと庭で見える夜空は、空の条件より先に、手すりと屋根と隣家で決まります。まず昼のうちに、立つ位置からどの方角がどの高さまで開いているかを見ておきます。南が開いていれば、月と惑星が通る道がそのまま視界に入ります。東か西だけが開く場所では、見える相手は昇り始めと沈み際に限られます。地平線に近いほど光の通る大気は厚く、大気減光で星は暗く赤くなります。高度の高い相手から選ぶほど、同じ空でも得をします。天頂が屋根で塞がる間取りでは、いちばん暗い空を使えません。

次に減らすのは、空ではなく自分の周りの明かりです。都市の光害は、空全体がにじむスカイグロウと、視界の隅に直接入る局所的なグレアに分かれます(Astronomy 誌)。ベランダで減らせるのは後者です。眼の中の組織も光を散らします。スペインの大学の研究者2人が眼内散乱の寄与を計算した論文では、近い街灯のもとで眼内の散乱が、感じる夜空の明るさの大きな部分を占めました。瞳に届く直接光を遮れば、肉眼の限界等級は大きく上がります(Bará・Bao-Varela、2023)。部屋の照明と玄関灯を消し、体の向きと立ち位置で光源を視界から外します。手元は赤色ライトにし、携帯電話の白い画面は見ません。明かりが1つ視界に残るだけで、目が暗さに慣れる時間は振り出しに戻ります。

時刻は、周りの照明が減るほうへ寄せます。ポーランドのクラクフで街路灯が消えた期間、市内と近郊の地上測定で、晴れた夜の天頂の明るさは15%から39%下がりました(Ścieżor、2021)。下がり幅は、自治体の人口規模に比例していました。近所の窓と看板が消える時間帯ほど、同じベランダでも空は暗くなります。日が沈んだ直後は薄明で空が明るいので、見始めを日没に合わせません。

空気の澄み具合は、暗さと同じだけ効きます。大気のエアロゾルが減ると、都市とその周辺の夜空の明るさは下がります。計算では、光源へ向かう方向でとくに効きました(Kocifaj・Barentine、2021)。雨や風が過ぎたあとの乾いた夜を選ぶ理由は、ここにあります。街の上に出た雲は地上の人工光を散らし、空をかえって明るくします(Ścieżor、2020)。街では、曇った夜の空は晴れた夜より明るくなります。

月は、ベランダの夜の主役にも邪魔者にもなります。満月の夜は空全体が明るく、淡い相手は月明かりに沈みます。地形を見るなら上弦の月と下弦の月が向いていて、影が長く伸びる月の欠け際では凹凸が立体に見えます。淡い相手を狙う夜は、新月の前後か、月が地平線の下にある時間帯を選びます。月の出入りと月齢は、地点を指定して調べられます(国立天文台 暦計算室)。

狙う相手は明るさで選びます。光害の強い空でも、月と金星・木星・土星は残ります。双眼鏡を足すと、肉眼で3等までの空から6等、ときに7等の星まで届きます(Astronomy 誌)。ガリレオ衛星の並びや明るい星団が見えてくるのは、この差の分です。環境省の星空観察では、夏と冬の新月前後2週間に、30秒・F5.6・ISO800で天頂付近を撮った写真を集めています(環境省)。

最後に、つまずきの形を3つ。1つめは光害マップを信じきることです。コペンハーゲン周辺の4か所を手元の測定器で測ると、どの地図も実際より空を暗く見積もっていました(Cosmic Curiosity・物販の案内あり)。2つめは写真との落差です。東京のベランダから撮られた超新星の画像は、30秒の露光を499枚重ねて4時間ぶんを平均したものでした(Cuiv, The Lazy Geek・販売リンクあり)。肉眼と双眼鏡で同じ姿は見えません。3つめは自分の家の照明です。覆いの無い器具の光は敷地の境で止まらず、隣の庭や寝室の窓までこぼれます(AstroBackyard)。器具を下向きにして覆いを付け、必要な時間だけ点くようにすれば、ベランダから見える星は増えます(AstroBackyard)。ベランダの夜は、見える数を競う場所ではなく、同じ相手の見え方の段差を確かめる場所です。

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