ヘッドホンでのモニター

家で歌う

どこで使う: どちらでも

ヘッドホンでのモニターは、自分の声を耳で確かめながら歌う方法。

どういうもの?

歌っている最中の自分の声を、耳をふさいだ状態で聞きながら進めるやり方です。歌う人の耳には骨を伝わる声と空気を伝わる声が混ざって届き、耳をふさぐと骨伝導の低い成分が外へ逃げずにとどまります。聴覚研究者ブライアン・ムーアのレビューは、耳を密閉する補聴器で自分の声が大きく・こもって聞こえるオクルージョン効果が起きると説明します。ヘッドホンで耳をふさぐときも同じしくみです。音程の狂いには気づきやすくなる反面、実際より太く上手に聞こえます。ボーカルコーチのベス・ロアーズは、ライブのイヤモニターも同じ理屈で自分の声を確かめやすくし、張り上げずに歌えると話します。

使い方・設定の目安

片耳だけ当てて、もう片方は開けたままにします。伴奏に対して自分の声はわずかに小さめ、耳が痛くならない音量で止めます。返りの遅れが少ない有線のほうが歌いやすいです。耳をしっかり覆う密閉型のほうが周りの音に気を取られにくいです。ボーカルコーチのベス・ロアーズは、イヤモニターなら自分の声のミックスを自分で選べ、伴奏を控えめにして耳を守れると話します。五分ほど歌ったら一度外し、何もつけずに同じ一節を歌って、生の声との差を確かめてください。違いに慣れておくと、本番でも張り上げにくくなります。

注意・トラブル

自分の声が小さく聞こえると、人は無意識に張り上げます。音量は上げる方向ではなく、下げて声を探す方向で合わせてください。音声研究者ボッタリコらが伴奏を大きくして歌わせた実験では、伴奏が大きいほど声を張り上げるロンバード効果が訓練のない歌い手ほど強く出て、耳に自分の声がよく聞こえるほど声量は下がったと報告しています。だからといって耳を密閉しすぎると自分の声が実際より上手に聞こえ、力み過ぎに気づきにくくなります。大きな音を一時間以上浴び続けるのは耳の負担になり、歌い終えたあとの耳鳴りやこもった感じが翌日まで残るようなら、自分で判断せず耳鼻咽喉科で相談してください。

出典

  1. 動画・英語 Beth Roars Vocal Coach Explains: What Are In-Ear Monitors And Why Do Singers Use Them?
  2. 論文・英語 Pasquale Bottalico・Simone Graetzer・Eric J. Hunter/Journal of Voice(2016) Effect of Training and Level of External Auditory Feedback on the Singing Voice: Volume and Quality
  3. 論文・英語 Brian C. J. Moore(2026) Hearing Aids: What Works Well and What Can Be Improved

解説動画: 歌手がイヤモニをつける本当の理由。【明日から使えるボイトレ雑学】/しらスタ【歌唱力向上委員会】

耳と脳をぐるぐる回す: 歌は念じれば当たるものではなく、出した声を耳で聞いて脳が次の一声を補正する聴覚フィードバックを高速で回しながら、音程も声量も声色も調整している。だからヘッドホンの大音量で自分の声をかき消すとこのループが切れ、とたんに音程が取れなくなる。

返しがあるから歌える: 小さなライブハウスでは、歌い手の足元に本人へ向けたモニタースピーカーを置いて自分の声を返している。ヘッドホンをして歌う収録も同じで、伴奏と自分の声の両方が耳に返るように組んである。むしろふだん喋っているときより自分の声がよく聞こえ、歌いやすくなる。

大きな会場で耳をふさぐわけ: 音には速度があり、100m離れると0.2〜0.3秒遅れる。客席の手拍子がずれて聞こえるのと同じ理屈で、反響音も遅れて戻ってくる。それが耳に入るとリズムも音程も崩れるので、外の音を遮り、耳の中で楽器と自分の声のバランスを作る。動き回っても返しが追うのも利点。

手のひらで返しを作る: 家でも同じことはできる。手を耳のうしろや口の横に当て、角度を少し変えると自分の声が急によく聞こえる位置が見つかる。その状態で歌って録音すると変化が分かりやすい。両手を空けたいならサンバイザーや下敷きで反射面を作る手もあり、最初の1〜2曲で使って外すと脳が自分の声を覚えていく。

風呂場と車が歌いやすい理由: 風呂場は壁が硬く、運転席はすぐ前にガラスがあるので、声がよく跳ね返って聞こえる。だから気持ちよく歌える。逆に自分の声が聞こえないと余計な力みにつながるし、発声のバランスも崩れる。ちゃんと聞こえていれば声は枯れにくく、高い音も気持ちよく出せる。