アンカリング
引っぱられる
効く場面: 買うとき
最初に見た数字が、基準になってしまう
どういうクセ?
先に示された数字が、その後の判断の基準になってしまう性質です。Tversky と Kahneman(1974年)は、不確かな判断に使う近道の一つに「起点からの調整」を挙げ、便利だが、系統的で予測できる誤りを生むと論じました。Sprouts は、コロンビア大学の教授の授業で、ドイツ車の平均価格を「9万ドル超か」と聞かれた MBA の学生が、「3万ドル超か」と聞かれた学生より高く見積もった例を紹介しています。
相場で何が起きるか
「高値から3割下げたから割安」という判断は、高値が正しい価格だったという前提に立っています。Baker ら(2009年)は企業買収の分析で、提示価格が直近1年の最高値(52週高値)に寄り、その値を超えると受け入れられる確率が跳ね上がると報告し、当事者が過去の高値を基準に交渉を単純にしているようだと述べています。同じように、「1株1万円は高い、100円は安い」という感覚も、時価総額を見れば意味がないことがわかります。
仕組みで防ぐ
Kaustia ら(2008年)は、北欧の金融の専門家300人と大学生213人に、起点となる値を変えて株の収益を予想させました。専門家は学生より引っぱられにくい一方、影響は有意に残り、本人は過去の数字が予想を左右したことに気づいていない様子でした。経験を積んでも消えないので、価格だけでなく、価値の指標も並べて見ます。PER(株価収益率)や配当利回りは、価格を利益や配当と組み合わせた数字です。
出典
- 論文・英語 Amos Tversky, Daniel Kahneman(Science)(1974) Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases
- 動画・英語 Sprouts The Anchoring Bias: Why The First Offer Matters
- 論文・英語 Malcolm Baker, Xin Pan, Jeffrey Wurgler(NBER ワーキングペーパー。のち Journal of Financial Economics に掲載)(2009) A Reference Point Theory of Mergers and Acquisitions
- 論文・英語 Markku Kaustia, Eeva Alho, Vesa Puttonen(Financial Management)(2008) How Much Does Expertise Reduce Behavioral Biases? The Case of Anchoring Effects in Stock Return Estimates
解説動画: 【行動経済学】知らないと“無駄遣い確定”!アンカリング効果の罠【ゆっくり解説】/ゆっくり行動経済学【お金で損しない】
最初に見た数字に縛られる: 行動経済学の解説チャンネル。最初に見た数字に脳が縛られて判断を誤るのがアンカリング効果。定価1万円の服が3,000円と言われると即買いしてしまう——その瞬間にもう引っかかっている、という導入。
基準そのものを疑う: その1万円が本当に正しい値段かどうかは誰も決めていない。1万円という数字が基準(アンカー)になっているだけで、実際に得をしているとは限らない。そしてそもそも要らないものなら、3,000円でもただの無駄。
投資での現れ方: 同じ構造が、過去の高値や自分の買値を基準にしてしまう場面で働く。知っているだけで判断が変わるタイプのクセなので、まず名前を知っておくことに意味がある。