内なる声を消せば速くなる説

読む速さの思い込み

頭の中の音読をやめれば読む速さの上限が外れるという説

よく言われること

「頭の中で音読しているから、話す速さが読みの上限になる」と言われます。だから声を消す訓練をすれば上限が外れる、という続きがつきます。口を閉じる、あごを押さえる、数を数えながら読むといった手順が示され、これが速読の入口として置かれることが多い説です。目で追うだけの練習を続けるうちに声は消えると案内されます。

実際はどうか

音の情報を通す処理は理解の部品で、切り離せないと総説は整理しています。喉の筋肉の動きを抑える訓練をした実験では、やさしい文章では影響が小さかった一方、難しい文章では理解が落ちました。声は消すべき癖ではなく、内容が重いときに働くしくみだと考えられます。抑えて速く読めたという測定は、見つかっていません。

なぜ広まったか

黙って読んでいても声の気配は自分で感じ取れるので、そこが邪魔者に見えます。話す速さと読む速さを並べると差が小さく、上限があるという説明も筋が通って聞こえます。声を止める練習は自分で試せて手応えもあるので、眼を速く動かす速読術と組にして教えられてきました。消す対象がはっきりしていて教えやすい話でもありました。

どう言えば正しいか

「消せば速くなる」ではなく、「内なる声はやさしい文章では小さくなり、難しい所では戻ってくる」が、実験の結果に沿った言い方です。読む速さを左右しているのは声の分ではなく語彙と背景知識の厚さで、声を止める練習に時間を割く理由は見当たりません。難所で声が出るのは、そこが重い箇所だという合図として使えます。無理に消す必要はありません。

確かめられ方

Rayner らの2016年の総説が、音の情報を扱う処理は理解の一部で切り離せないと整理しています。Hardyck と Petrinovich 1970 は喉の筋活動を抑える訓練を使い、やさしい文章では影響が小さく難しい文章では理解が落ちることを示しました。半世紀前の限られた材料での実験で、抑えると速く読めるかまでは調べられていません。

解説動画(海外・英語): Is It Really Possible to Learn to Speed Read?/Today I Found Out

速さの見取り図: 動画はまず、大学を出た人のほとんどが分速200〜400語の範囲で読むという測定を置きます。そのうえで分速1000語をうたう講座やアプリが並ぶ現状を挙げ、読みは理解できて初めて意味があると前置きします。人より速く読み終えても、後から中身を言えないなら速さに意味はない。ここを軸に、速読の手順をひとつずつ見ていきます。

選りすぐりで試す: Carver は速く読めるとされる人を集めました。学生から成績上位の人、大量に読む仕事の人、速読で名の通った人まで選び、読解のテストで速さと正答を測っています。動画によれば、その誰もが分速600語を超えたところで正答が7割5分に届かなくなりました。選りすぐった人たちでも、上限はそのあたりに現れています。

声は止まらない: 次に内なる声の話に入ります。喉の筋肉へ届く神経の信号は器械で拾えるので、声を消したと述べる速読者でも信号は出ていると紹介します。抑えたうえで難しい文章に当たると理解が崩れる、という Rayner の言葉も引きます。語を見ている時間は、意味をつかむための間だという説明です。

効くのは語彙: では何が速さを決めるのか。動画が挙げるのは語彙と背景知識のうち語彙の側で、見てすぐ意味の分かる語が増えるほど速くなると述べます。なじみの薄い語ほど内なる声はゆっくりになり、その差は喉の信号の測定でも見えるとのこと。語が分かれば前へ戻る回数も減ります。声を止める練習ではなく、たくさん読んで語を増やすほうが入口だと言います。

数字の見せ方: 1語ずつ高速表示で読むアプリにも触れ、眼を動かす手間は省けても脳の処理が追いつかず、引っかかった語へ戻れないぶん理解が落ちると述べます。講座の前後比較には読まなくても解けるテストが使われることもあると指摘し、速さの数字だけを見ないよう結びます。拾い読みは別の技として成り立つ、とも添えます。