起り屋根
屋根の形
時代: 江戸
棟から軒へ、外側へふくらむ曲線を描く屋根です。反り屋根とは曲がる向きが逆で、軒先が下を向いて終わるため、横から見ると屋根面が丸く映ります。
どんな形か
棟を頂点に屋根面が外へふくらみ、軒へ近づくほど傾きが強くなる形です。同じ勾配で直線に葺いた屋根とくらべると、中ほどが持ち上がって見えます。大工はふくらみをむくりを何寸付けるかという言い方で扱い、棟から軒までの間に数寸から一尺ほどを起こします。桟瓦葺でも檜皮葺でも取れる曲線で、近世の町家や数寄屋に多いと説明されますが、時期と地域を限った集計は見当たりません。建物を低く穏やかに見せる働きがあります。
見分けの決め手
建物の真横に回り、棟から軒先までの稜線を目で追います。線が上へふくらみ、軒先で下を向いて終わるなら起りです。妻側からでも読めて、破風板の縁に同じふくらみが出ます。斜め前から見ると勾配だけが目に入って曲がりの向きが消えるため、正面寄りの一枚では形が決まりません。入母屋造なら下の屋根にも曲線が回るので、上下二段の稜線を見くらべると確かめが利きます。曇りの日は空との境で輪郭を拾うと、線の向きが読み取りやすくなります。
取り違えやすい相手
まぎらわしいのは反り屋根で、どちらも曲面ですが向きが逆になります。奈良県の唐招提寺金堂のように軒先が跳ね上がれば反り、下がって終われば起りと、稜線の末端だけで分かれます。もう一つは勾配のゆるい切妻造で、直線の屋根でも遠目にはふくらんで映ります。棟の際と軒の際を直線で結び直すと、屋根の面がその線から外れるかどうかが見えます。軒先の一尺ほどだけを反らせた屋根もあるため、端だけを見て決めると取り違えます。
どこに立つと見えるか
屋根と同じ高さに近い目線が取れる向かいの通りや石段の上が向きます。岡山県の旧閑谷学校講堂は入母屋造に備前焼の瓦を葺いた建物で、屋根の面がゆるく起きる例として説明されます。京都府の杉本家住宅では通りの反対側から桟瓦の面が中ほどでふくらむかどうかを見られ、奈良県の今西家住宅でも妻側から破風の縁をたどれます。見上げる角度が急になるほど曲線はつぶれるので、建物の高さの二倍ほど離れると読み取れます。
読みと表記のゆれ
読みは「むくりやね」で、「起り」を「むくり」と読ませる当て方はほかの語ではあまり使われません。表記は「起り屋根」と「むくり屋根」の両方が行われ、どちらかに定まってはいません。ふくらみそのものを指すときは仮名で書く例が多く、反り屋根の「そり」と対にして使う点は共通します。破風に付いたものは「起り破風」と呼ばれ、大工の口では「むくりを付ける」「むくらせる」と動詞にして使われます。