人がさわったヒナは見捨てられる

ヒナと巣の思い込み

人がさわると親が見捨てる、という説明は確かめられていません。環境省や日本鳥類保護連盟の資料は、においではなく人がそばに居続けることのほうが親を遠ざけると説明しています。

言われていること

地面のヒナを拾い上げたあと、人のにおいが付いた個体は親が寄りつかなくなるという言い方が、拾った側への説明として流れています。触ってしまった以上は戻しても無駄で、そのまま連れ帰るほかない、という結論までが一続きで語られます。自治体や保護団体の窓口にも「さわってしまったので戻せません」という相談が届いており、避けられない選択に見せる理由づけとして働いてきました。素手で拾い上げることへのためらいが、この一言で消えます。

分かっていること

環境省と各都道府県、日本鳥類保護連盟が出している「ヒナを拾わないで!!」の解説文は、いずれも人のにおいで親が寄りつかなくなるという事実は無いと明記しています。分かっているのは二点です。においを理由に親が育雛をやめた記録が見当たらないことと、実際に親を遠ざけているのは人がヒナのそばに居続けている状況のほうだという点です。親鳥は少し離れた枝から人の動きを見ています。地面にいるヒナは巣から落ちたと合わせて読むところです。

どこまで確かめられているか

鳥の嗅覚は種によって差が大きく、ミズナギドリ類やヒメコンドルでは餌さがしに嗅覚を使うことが実験で示されています。そのうえで、人の手のにおいへの反応を調べ、親が育雛をやめたと示した報告は見当たりません。「鳥は匂いが分からないから平気」という説明も同じくらい雑で、裏づけがあるのは、においを理由にした放棄の記録が無いというところまでです。嗅覚の強さ自体が種ごとに違うため、一つの答えで全体を言い切れる段階にはありません。

なぜ広まったか

触れた物を親が嫌うという発想は、人のにおいを嫌う動物の話から借りてきた説明です。子どもに「野生の生きものにさわらない」と伝える言い方としては通りがよく、ひと言で納得させられるぶん、注意喚起の場面で繰り返されてきました。もとは触らせないための言い方でしたが、いまは巣へ戻せるはずのヒナまで持ち帰る理由に転じています。巣立ちビナを拾うことの説明に使われるたび、環境省の資料が打ち消しに回ってきました。