溶けた酸素と、空気の酸素
酸素の届きかた
水耕は水に溶けた酸素を、噴霧は空気の酸素を使います。同じ「酸素」という言葉でも、量も届き方も別のものとして読む必要があります。
何が起きているか
同じ酸素でも、根が受け取る形が違います。水耕では水に溶けているぶんだけが根に回り、噴霧では空気中の酸素が根をつつむ水の膜を越えて入ります。空気側は量に余裕がある代わりに、膜を渡る一区間が細くなります。水側は渡る距離が短い代わりに、抱えられる総量が小さいままです。どちらの数字も、そのまま片方へは移せません。
何が効いているか
水側は水温と流れで決まります。商業の水耕では最低5 mg/Lが推奨され、NFTでは入口6.2 mg/Lが出口で2.9 mg/Lまで落ちた測定があります(Urrestarazu ら 2005)。12月の9.89 mg/Lが4月に5.99 mg/Lへ下がった例もあります(Palencia ら 2021)。空気側を決めるのは膜の厚さと、霧が止まっているあいだの長さです。
目で見て分かること
水側は計器で読めますが、空気側には同じように読める一つの数字がありません。見るのは根の色と濡れ方で、根が底の水に浸かっている状態のところだけ、水耕の物差しが要ります。タンクの側は養液の温度が上がると溶けられる量が減り、タンクの養液が濁ってぬめると消費が増えます。空気側は、根の見た目を数字の代わりに読むほかありません。
どこまで確かめられているか
水側の値は Scott と Villouta 2026(Frontiers in Plant Science)のイチゴNFTの総説がまとめたもので、5 mg/Lの推奨は Holderness と Pegg 1986、Zinnen 1988 に遡ります。この総説は噴霧栽培を扱っていません。噴霧の側に溶存酸素へ当たる管理値は定まっておらず、水側の数字を噴霧の合否には使えません。
解説動画: The Effect of Oxygenation of Water on Container Substrate (V.2)/UF FloricultureResearchAlliance
空気と水の持ち分: フロリダ大学の学生による発表で、まず量の差から入ります。空気に酸素は20.9%含まれ、量にすれば1リットルあたり271 mg。これに対し、室温の水が抱えられるのは8.3 mg/L。水は温かいほど抱えられる量が減り、水の中の拡散は空気中のおよそ1万分の1だと述べます(→空気の中と水の中の酸素)。
何を測ったか: 測ったのは灌水の水と、容器の培地の中の溶存酸素です。水道水は7、酸素を注入した水は29 mg/L。それをタンク・ホースの先・噴霧ノズルの先の三か所で受けて比べます。ブロックを分けて反復を取った試験で、光学式のセンサーで読み、温度も一緒に記録する、という組み立てです。
ノズルを通ると揃う: 結果は、ノズルを通った水がどちらも8.7 mg/Lに揃ったというものでした。ほぼ飽和にあたる値で、ふつうの水は上がり、酸素を詰め込んだ水は下がります。実際の生産現場でもノズルを出た水は飽和の98%で、細かい霧が粒の表面積を増やして水を飽和へ連れていくと説明します。
培地には入らない: 培地のほうは動きが鈍いままでした。ふつうの水はいくら注いでも変わらず、平均は 7.5 mg/L。酸素を注入した水を容器の容量の2倍注いでようやく8.5 から 12.3 mg/Lへ上がります。深さ2 cm と 4 cm では下のほうが低く、水で埋まった隙間が増えるほど酸素は減ると読んでいます。
水に載せて運べるか: 結論は、酸素を溶かした水で根に酸素を届けるのは効きにくいでした。むしろ培地を乾かすほうが、根に酸素を渡す道としては確からしいと述べます。水に溶かせる量には天井があって空気の側とは桁が違う——根へ酸素が届く道は二つあり、水の側の数字だけでは片方しか見ていないことになります(→根の呼吸)。