案内板を読む
建てられた年・様式・指定の言葉の読み方。
建物の前で屋根・軒下・正面・まわりを見終えたら、入口の脇に立つ案内板へ目を移します。板の中には、指定の言葉・構造の型・建てられた年という三つの違う情報が混ざって並び、分けて読まないと建物の重さや年代の確かさを読み違えます。
まず指定の言葉を分けます。文化庁は、歴史上・芸術上・学術上の価値が高い建造物などを「有形文化財」と総称し、そのうち重要なものを「重要文化財」に指定し、さらに世界文化の見地から特に価値の高いものを「国宝」に指定すると説明しています。つまり国宝は重要文化財の中からさらに選ばれた建物で、重要文化財より格が下がる別枠ではありません。これとは別に、建設後50年を経過し、国土の歴史的景観に寄与しているもの・造形の規範となっているもの・再現することが容易でないもののいずれかに当たる建物は「登録有形文化財」として登録されます。登録は指定より緩い仕組みで、重要文化財や地方公共団体の指定を受けた建物は登録の対象から外れます。板に「国宝」「重要文化財」「登録有形文化財」のどの言葉が使われているかで、建物が守られている重さの段が変わります。
次に構造の型を分けます。山口県の功山寺仏殿の指定説明には「桁行三間、梁間三間、一重もこし付、入母屋造、檜皮葺」とあり、「禅宗様仏殿として正規な姿をもっている」と続きます。正面で数えた柱間の数・屋根の形・葺く材料を決まった順で並べる言い方で、ここまでの節で見てきた言葉そのものです。板の文を読むことは、自分の目で確かめた形を答え合わせする作業になります。
最後に、建てられた年の確かさを分けます。功山寺仏殿では、堂内の来迎柱に「此堂元応二年(一三二〇)卯月五日柱立」という墨書が見つかり、この文字をもって建立年代とするのが妥当とされています。文字の記録が残らない建物では、宇治上神社本殿の「細部の手法から12世紀前期と推定され」のように、様式の特徴から年代を当てる言い方になります。墨書のような文字の記録と、様式からの推定とでは、確かさの段が違います。同じ建物でも資料どうしで年が割れることもあり、大仏様の浄土寺浄土堂は、ある解説が「建久三年(一一九二)の建立」とし、別の解説が「建久八年(一一九七)に落成」とします。板の年を一つだけ丸呑みにせず、確定か推定か、資料どうしが揺れていないかを確かめます。
板にはもう一つ、建てられた年とは別の年が載ります。宇治上神社本殿は重要文化財の指定が1902年、国宝への指定が1952年で、建てられた12世紀前期から大きく離れています。指定の年は建物がいつから守られ始めたかを示す年で、建てられた年と取り違えません。様式の言葉にも同じ注意が要ります。大仏様や禅宗様は寺院の指定説明に直接出る言葉ですが、擬洋風建築・辰野式・帝冠様式・看板建築は、建てられた当時には無く、後の研究者が建物を分類するために付けた呼び名です。近代の建物の板にこれらの語が出ていなくても、見分けの手がかりとして覚えておくと役立ちます。
