見たものを残す
写真と一言で、見た所を残す方法。
建物の前を離れる前に、写真と一言を一組にして残します。文化財を撮った写真そのものが歴史資料として扱われるようになり、すでに失われた文化財の写真は実物に匹敵する価値を持つと説明されています(文化庁の広報誌「ぶんかる」の連載)。自分の1枚も、同じ建物が修理や葺き替えを経たあとには、その日の姿を伝える記録になります。年を置いて同じ建物を撮り直せば、屋根や壁の傷み方の違いも並べて読めます。残すものは、写真・一言・建物の名前の三つです。
写真は、広い所から細かい所へ順に撮ります。アメリカ国立公園局の歴史的建造物の記録事業は、周りの敷地や隣の建物・道路まで入れた全景、正面、前と片側を入れた斜め、背面と反対の側を入れた斜め、入口の細部、代表的な窓、建てられた年代の手がかりになる外まわりの細部を、記録に要る視点として挙げています(HABS/HAER/HALS 写真ガイドライン)。同じ手引きは、正面の写真に大きさの目安となる物差しを一緒に写し、撮った方向を写真の目録に書き添えるものとしています。手元の記録でも、全景を1枚入れてから細部へ寄ると、あとで建物の立つ向きと屋根の見え方をつなげて読み返せます。入口と窓の細部を1枚ずつ残すと、軒下の組物や妻の飾りを、帰ってから図鑑の項目と突き合わせられます。
一言は、指定説明の構造形式の並びをまねると短く収まります。山口県下関市の功山寺仏殿の構造形式は「桁行三間、梁間三間、一重もこし付、入母屋造、檜皮葺」です(文化遺産オンライン)。正面と側面の柱間の数、屋根の重なり、裳階の有無、屋根の形、葺く材料が、決まった順に並びます。自分の一言も同じ順にすると、切妻造・寄棟造・入母屋造・宝形造のどれに決めたかが先に立ち、屋根に重なる造りは別の行に分かれます。形を決めきれなかったときは、名前を当てずに「妻の三角が軒まで届かない」と見えたままを書きます。
一言には、見たことと聞いたことを混ぜません。自分の目で確かめた形と、案内板から写した語は、行を分けて書きます。建物の名前は、案内板や文化遺産オンラインの表記に合わせた正式名称で残すと、帰ってから同じ建物を引き直せます。日付・所在地・撮った方向も、写真の脇に短く添えます。建物が複数建つ敷地では、撮った位置を簡単な配置図に落とすと、どの棟の写真かを取り違えません(HABS/HAER/HALS 写真ガイドライン)。
初めての日に起きやすいのは、写真だけ撮って一言を書かずに帰ることです。帰ってから見返すと、軒先の切れた写真ばかりで屋根の形を決められなくなります。立ち去る前に1行書き、全景の1枚を撮り直します。撮影の可否と、三脚や自撮り棒の扱いは、現地の掲示と拝観の案内で確かめてから構えます。人が住んでいる民家は、所在地や表札が分かる形で人に見せません。残した写真と一言は、次に同じ形の屋根へ出会ったときに比べる手がかりになります。
