見たものを書き残す

日時・場所・空の状態・見えたものの残し方。

見えた夜と見えなかった夜の差は、腕前よりも空の条件で決まります。条件を書き残していない記録は、同じ夜を作り直す手がかりになりません。残すのは、日時・場所・空の状態・見えたものの四つです。四つがそろえば、見えなかった理由を後から空の側に当てられます。正確な記録が無ければ、大切なものを見たのかどうかさえ分からないままになります(BBC Sky at Night Magazine)。

日時は、年月日と分までの時刻で書きます。夜半を越えた夜は日付が変わるので、始めの日と明けの日を並べると、どちらの晩の記録か読めます。海外の記録や予報と突き合わせるなら、世界時も添えます。世界時はグリニッジ天文台の子午線の平均太陽時を基準にした世界共通の時刻で、1884年の万国子午線会議で基準の子午線が決まりました(天文学辞典)。日没の直後は、まだ空が暗くなりきっていません。太陽が地平線の下18度まで下がるまで薄明が続くので、暗くなりきる時刻を目安に書き始めると、夜どうしを比べられます(天文学辞典)。

場所は、地名だけでは足りません。緯度と経度、立った向き、視界をふさぐ建物と木を書き添えます。同じ市内でも街灯の近さで夜空の明るさは変わり、光害の強い側に背を向けただけでも見える星の数が動きます。

空の状態は、明るさ・雲・星像の揺らぎに分けて書きます。明るさは肉眼の限界等級が手早く、八枚の星図のうち見え方がいちばん近い1枚を選ぶ形の観察が、国内でも夏と冬に呼びかけられています(環境省)。同じやり方で市民が寄せた報告を解析した研究チームは、集まった報告が人工の空の明るさを強く映し、世界の照明の変化を追えると述べています。いっぽうで1件ごとのばらつきは標準偏差1.2等級あり、1晩の値だけでは足りません(Kyba ほか、2013)。月明かりも書き添えます。天頂を撮った写真から明るさを数値にする調査が新月の前後2週間に限られるのは、月の光を外した夜だけを比べるためです(環境省)。薄い雲が通ったら測るのを止める扱いが実務なので、雲は空の何割を覆っていたかを残します。

見た天体の高さも、空の状態の一部です。天頂を1とした大気の厚さは天頂から60度の範囲なら角度の正割で近づけられ、大気減光の量はその厚さに比例します(天文学辞典)。低い空で見えなかった星は、空が明るかったせいとは言い切れません。星像のぼけと揺れを表すシーイングは、国内の天文台の可視光で2秒角前後、標高4200mのマウナケア山頂では平均0.6秒角です(天文学辞典)。肉眼と双眼鏡では秒角で測れないので、またたきの強さを一言で残します。

見えたものは、見えたままを書きます。肉眼か双眼鏡か、倍率、数えられた星の数、割れて見えた形の細かさを並べます。見えなかった相手も、同じ重さで残します。1件ごとに付ける項目として、年月日の順の日付・世界時の時刻・道具と倍率・雲や霞や月明かりの条件・アントニアディの5段階のシーイングが挙げられています(BBC Sky at Night Magazine)。スケッチは外で粗く描き、室内で清書します。綴じていない紙は散るので、厚い表紙の帳面を使います(BBC Sky at Night Magazine)。

記録は、重ねるほど効きます。肉眼の報告は人の目の変化が遅いぶん、長い年月の列として安定すると見込まれています(Kyba ほか、2013)。アルゴルやミラのように明るさの変わる星、月の満ち欠けは、前の晩の見え方を残していないと変化として読めません。書くときは赤色ライトの明かりにします。白い画面を見ると暗順応が振り出しに戻り、記録のたびに目の慣れを失います。野外では机が無く、紙は濡れると残らず、古い記録を探すのにも手間がかかります(RASC Toronto の集まりでの発表)。晩のうちは短い言葉で足り、家に帰ってから書き足せば記録は続きます。

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