見え方の期待を合わせる
写真のようには見えない理由と、実際に見えるもの。
夜空の写真と自分の目を同じ物差しで比べると、ほとんどの夜が期待外れになります。差の大きさは腕前ではなく、カメラが時間を積み上げられる一方、目は瞬間ぶんの光しか受け取れないという仕組みから来ています。アンドロメダ銀河を10秒と10時間で撮り比べた記録では、10秒の1枚でかすかに割れて見えた暗い筋が、10時間ぶんでは銀河の外縁を縁取る帯として現れます(Ian Lauer Astro)。10時間は一晩に収まらないため、短い露光を何枚も重ねて足し上げた総量で、撮影は何日にも分かれます。同じ記録では、生のデータは画面では暗いままで、明るさを引き伸ばす処理を通して初めて形が浮かび、色は赤・緑・青の光を別々に撮って重ねた結果だと説明されています。
色が出ないのは、暗い場所の目が色を捨てて感度を取る側に切り替わるためです。桿体が受け持つ暗所視では、色のついた試験光も色の無い光として見えます(Webvision)。桿体の感度は暗い場所に入って5分から10分で大きく上がり、下限に届くのは40分ほど先です。暗順応が進んでも色は戻らないので、星雲は写真のように赤く見えると星は写真のように色とりどりに見えるの落差は、空の条件を選んでも埋まりません。例外は明るい星で、ベテルギウスの赤みやリゲルの青白さは目でも追えます。
明るさの数字も、そのままでは見え方になりません。見かけの等級は全体の光を一点に集めたと仮定した値で、視直径の大きい相手ほど光は面へ配られ、一点あたりの表面輝度は背景の空に近づきます。数字の読み替えを知らないまま出かけると、銀河は渦を巻いた姿で見えると天の川は写真のように空を横切るの落差に当たります。肉眼で届く等級の目安は、天文学者のハロルド・ウィーバーが1947年の論文で、名の知れた肉眼の星表と観測者の報告を並べて整理しています。プトレマイオスの『アルマゲスト』の最も暗い星が5.4等、視力で知られたハイスの星図が6.1等で、空の澄んだコルドバで観測したグールドは7.2等の星まで記録しました。全光度6.8等のさんかく座銀河を肉眼で見たという報告もあり、下限の値には1等級を超える幅があります。
道具を足しても、増えるものと増えないものが分かれます。双眼鏡は星団・二重星・木星の4大衛星を楽に見せ、肉眼に届かない暗い星まで映します(NASA)。反対に、星座の形・惑星の並び・天の川は肉眼でこそ成り立つ見方で、流星群は寝ころんで見上げるのがいちばんです(NASA)。双眼鏡で増えるのは星の数と芯の確かさで、淡い面の光の色や形は増えません。口径で集めた光も、射出ひとみ径が瞳孔径より太ければ目の外にあふれます。
写真は、画角の広さも撮り手が選んでいます。一般的な双眼鏡の実視界は6度から8度で、6.3度の機種なら欠けた月とプレアデス星団が同じ視野にぎりぎり収まります(NORI PHOTO)。月の視直径は約0.5度しかないので、月が大きく写った写真は望遠で切り取った絵です。写真と見比べるときは、露光時間だけでなく画角の違いも差の一部です。
見える量の天井は、立っている場所の空の明るさで決まります。空の明るさの段階ごとに同じ設定で天の川を撮り歩いた記録では、都心と市街地では設定を変えても帯が出ませんでした(Ian Lauer Astro)。街を離れるにつれてカメラには写り始め、撮影者自身の目に帯が見えたのは、カメラに初めて写った空よりさらに1段暗い空でした。夜空の明るさと光害が天井を下げている空では、目も道具も足りているのに帯が出ません。低緯度オーロラも同じで、極地から離れた多くの観測地ではめずらしく淡く、色よりも灰色がかった姿で、写真のほうがよく写ると書かれています(NASA)。
最初の夜に置く期待は、写真と同じ像ではなく、目に届く段差のほうに寄せます。月の欠け際の凹凸、明るい惑星の落ち着いた光、1等星の色みの違い、星団の粒立ちは、肉眼か双眼鏡で確かめられる手応えです。淡い相手に向かうときは視線をわずかに外すそらし目が効き、流れ星は写真のように次々に流れるのような密度を待たずに、1本ずつ数える構えに切り替えます。
この節に出てくる図鑑の項目
出典
- The Visibility of Stars Without Optical Aid
- Light and Dark Adaptation
- Skywatching
- Night Lights: Aurora, Noctilucent Clouds, and the Zodiacal Light
- Photographing a Galaxy for 10 Seconds vs 10 Hours
- Shooting the Milky Way from Every Light Pollution Level
- 11月19日のほぼ皆既月食。見られそう!肉眼や双眼鏡、望遠鏡でどのように見えるのか?カメラでどう撮れるのか?
