見た草木を書き残す
場所・日付・特徴・写真の残し方。
見た草木を書き残すときは、場所・日付・特徴・写真の4つを決まった順で残します。場所は地名で止めず、どの一株かまで絞ります。生物季節観測では、気象台や近くの公園にあらかじめ決めた標本木を目で見て、開花や満開、黄葉、落葉の日付を記録します(気象庁)。植物の対象は2021年1月から6種目9現象で、さくらの開花と満開、うめとあじさいとすすきの開花、いちょうの黄葉と落葉、かえでの紅葉と落葉が残りました(気象庁)。一株を決めてから見る順番は、街の木を自分で追うときにもそのまま使えます。
日付は、見た日をその日のうちに書きます。1回の日付は1つの点にすぎず、同じ株で積み上げたときに差として読めるようになります。2026年のさくらの開花は、東京で3月19日に観測され、平年の3月24日より5日早い記録として並んでいます(気象庁)。平年差が出るのは、場所と標本木が動いていないからです。手元の記録でも、株と場所を固定すれば、翌年の同じ木がどれだけ早いかを自分の数字で言えます。
特徴は、あとから図鑑を引ける形で書きます。見る順は葉から入り、枝への付き方、ふちの形、冬に葉が残るかどうかへ進みます(ミシシッピ州立大学エクステンション)。同じ順でメモの欄を作っておくと、現場で埋められなかった欄が、次に見るところとして残ります。自然観察の記録に決まった型は無く、スケッチ・文章・計測・地図・天気・種のリスト・あとで調べる問いのどれを混ぜてもよいとされています(イリノイ大学エクステンション)。書く量を増やすより、同じ欄を毎回埋めるほうが、見返したときに比べられます。
写真は、葉だけで終わらせず、花と実を一緒に残します。Wanigasingheらの研究チームは、カナダ・アルバータ州の54か所・119種を撮った画像5,291枚を無料の識別アプリ2種に読み込ませ、花や実などの繁殖器官が写った画像のほうが正答率が上がり、同じ株の複数枚を組み合わせるとさらに上がったと報告しています。撮る相手は、花序の並び方、頭花の中心と外側、殻斗の内側、翼果の付け根、落ちた核果と液果の断面のように、見分けの決め手になる部分です。雌雄異株の木は株ごとに実の有無が分かれるため、どの株を撮ったかを場所の記録と結びつけます。
やりがちな失敗は3つあります。1つ目は、花だけを撮って葉と樹皮を残さないことです。花が終わると、同じ木を見つけ直せなくなります。2つ目は、日付を後から思い出して書くことです。週をまたぐと、見た順が入れ替わります。3つ目は、場所を公園の名前で止めることです。同じ種が何本も植わっている公園では、株を取り違えます。
人に見せる記録では、場所の細かさを落とします。Smithらは、南アフリカで多肉植物の違法な持ち出しが増えた背景に、地理情報の付いた標本のほか、新種を記載した原記載や公開されたサイトから正確な産地がたどれる点を挙げ、文献とサイトでの産地の公開をやめる措置を求めています。場所をぼかす機能にも副作用があります。Kooらは、韓国の両生類と爬虫類3種で、投稿後に位置がずれた記録から作った分布の予測が、元の記録から作った予測と食い違ったと報告しました。同じ研究では、記録を使った査読論文170本のうち、位置がずれていることに触れていたのは4本だけでした。手元には細かく残し、外に出す分だけ粗くする分け方なら、記録を捨てずに済みます。
この節に出てくる図鑑の項目
出典
- 松山地方気象台による生物季節観測表
- 2026年のさくらの開花状況
- How to Identify Trees
- Recording the natural world through nature journaling
- Evaluating species identification apps as a tool for small plot-based surveys of vascular plants in Alberta, Canada
- Plant poaching in southern Africa is aided by taxonomy: Is a return to Caput bonae spei inevitable?
- Impact of obscured data on species distribution models
