損失回避
損を嫌う
効く場面: 暴落時
同じ1万円でも、失う痛みのほうが強い
どういうクセ?
1万円を得た喜びより、1万円を失った痛みのほうが2倍前後強く感じられる性質です。Kahneman と Tversky(1979年)のプロスペクト理論は、価値は最終的な資産額でなく増減に付き、その曲線は一般に得より損のほうで急だと示しました。Brown ら(2024年)は論文150本の推定607件を集め、損の重みを表す係数の平均を1.955としています。
相場で何が起きるか
損を確定させたくない気持ちは、含み損の銘柄を持ち続ける形(処分効果)で現れると考えられています。Odean(1998年)はディスカウント証券会社の1万口座の売買記録で、損の出た銘柄より利益の出た銘柄を売りやすいと報告しました。Benartzi と Thaler(1995年)は、損に敏感なうえに長期の投資家も頻繁に評価することが、株式が債券を大きく上回ってきた差の説明になると論じています。
仕組みで防ぐ
資産全体の何割まで下がったら何をするかを、平常時に紙に書いておく。もう一つは、口座を見る回数を減らすことです。見るたびに痛みの機会が増えます。Thaler ら(1997年)の実験では、結果を最も頻繁に受け取った参加者が最もリスクを取らず、稼ぎも最少でした。ただし実験の課題での結果で、実際の口座の成績ではありません。
出典
- 論文・英語 Daniel Kahneman, Amos Tversky(Econometrica)(1979) Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk
- 論文・英語 Alexander L. Brown, Taisuke Imai, Ferdinand M. Vieider, Colin F. Camerer(Journal of Economic Literature)(2024) Meta-analysis of Empirical Estimates of Loss Aversion
- 論文・英語 Terrance Odean(The Journal of Finance)(1998) Are Investors Reluctant to Realize Their Losses?
- 論文・英語 Shlomo Benartzi, Richard H. Thaler(The Quarterly Journal of Economics)(1995) Myopic Loss Aversion and the Equity Premium Puzzle
- 論文・英語 Richard H. Thaler, Amos Tversky, Daniel Kahneman, Alan Schwartz(The Quarterly Journal of Economics)(1997) The Effect of Myopia and Loss Aversion on Risk Taking: An Experimental Test
解説動画: 【資産運用】相場の大暴落がまたきたらどうすればいい?│投資Q&A/金融経済教育推進機構 (J-FLEC) チャンネル
暴落が来たら、まず何をするか: 「投資を始めてすぐリーマン・ショックのような大暴落が来たら」という質問への回答。まずパニックにならず冷静に判断することだと置いたうえで、実際の答えは暴落の前——お金の分け方にあると展開する。
お金を3つに分ける: 日々の生活に必要なお金(食費・光熱費+急な出費の予備費)、近く使い道が決まっているお金(車の購入・旅行)、そして当面使う予定がないお金。投資に回すのは3つ目だけ、というのがこの動画の核。
分けていなかった場合: 投資に回した資金が近く使う予定のあるお金だった場合、暴落時には大きな損が出る覚悟で売却するという選択肢しか残らない。一気に売っても分けて売っても同じ、と言い切っている。逆に当面使わないお金なら、再び値段が上がるまで持っておくという選択肢が生まれる。
積立をしている場合: 値段が下がればその分多く買えるので、平均単価を下げられる。だから大きな下落は安く買えるチャンスが来たと考えることもできる、として積立の継続を勧めている。
解説動画: 松谷会長が聞く『行動経済学とはなにか?』/資産運用業協会チャンネル
実験で確かめる: 資産運用業協会が、行動経済学の第一人者である大阪大学の大竹文雄教授を招いた対談。損失回避を、その場の質問で体験させる形で説明する。まず「コインを投げて表なら2万円もらえる」と「確実に1万円もらえる」——多くの人は確実な1万円を選ぶ。
払う側になると逆転する: 次に「コインを投げて表なら2万円払う」と「確実に1万円払う」——今度はギャンブルのほうを選ぶ人が多数派になる。もらうときは安全策、払うときは現状維持ができる可能性のあるギャンブルを打つ。これが損失を確定させることを嫌う性質だと説明される。
従来の考え方とのずれ: 伝統的な経済学では、利益の場面で安全策を取る人は損失の場面でも安全策を取るはずだと考えられていた。現実の人間はそこからずれている——この非対称そのものが、行動経済学が扱う対象だという整理になっている。