スキージャンプの姿勢

飛ぶ・滑る

効いているもの: 揚力

スキージャンプの姿勢は、体と板をひとつの翼にして落ちる速さを抑える構え。

何が起きている?

踏み切った直後から上体を板へ近づけて前へ倒し、板の先を開いたV字の形を作ります。この姿勢のまま4〜6秒飛び続け、落ちる速さを抑えながら前へ進みます。距離を決めているのは跳ね上がった高さではなく、どれだけ長く滑空できたかのほうです。空中では体と板の角度をわずかずつ調整し続けます。1980年代までは板を体に沿わせて平行に保つのが定石で、開くV字は見た目が悪いと酷評されました。

流れとしての理屈

体と板は風に対してわずかな角度を持ち、当たった空気を下向きに曲げて後ろへ送り出します。空気を下へ押した反作用として、体と板は上へ押し返されます。これが落下を遅らせている力の正体です。上側の流れが速いことと圧力が下がることは同時に起きているだけで、片方がもう片方の原因ではありません。上面だけでなく下面も空気を曲げる働きを持ち、両方の面が力に寄与します。角度を取りすぎると流れが剥離し、力は急に失われます。

選手がしていること

板をV字に開くと受け止める面が広がり、同じ角度でも得られる力が増えます。上体の傾きと腰の角度は風洞で詰めますが、最適な形は体格ごとに違います。スーツは体との余裕寸法まで規定され、超えれば失格です。すべては0.3秒ほどの踏み切りに合わせ込まれます。板1枚を125通りの角度で調べた研究では、揚力と抗力の比を決める一番の要因は前後の傾きで、左右に傾くロール角は5度以下に収めると安定するといいます。

勘違いしやすいところ

向かい風は不利に見えて、実際は記録が伸びる側です。風に対する速さが増え、受け止める空気が増えるからで、だから大会では風の条件で得点を補正します。この飛び方をベルヌーイだけで飛ぶという説明でまとめてしまうと、なぜ角度が命なのかを言えなくなります。

出典

  1. 公的機関・英語 NASA Glenn Research Center(Nancy Hall編)(2022) What is Lift?
  2. 公的機関・英語 NASA Glenn Research Center(Nancy Hall編)(2024) Bernoulli and Newton
  3. 論文・英語 Lianzhong Cao, Youcai Guo, Xiong Li, Long Chen, Xin Wang, Tianyu Zhao(2022) Optimization of Ski Attitude for the In-Flight Aerodynamic Performance of Ski Jumping
  4. 動画・英語 Vox Why ski jumpers hold their skis in a V

解説動画(海外・英語): Why ski jumpers hold their skis in a V/Vox

板をそろえていた100年: 100年前の五輪選手は板をぴったり平行にそろえ、両手を顔の前に置いていた。1950年代に腕だけを後ろへ回したが、板の形は変わらない。体を細く小さくするこの形は、空気が体と板をひとつのかたまりのまま回り込むので抗力は小さい。ただし落ちるのを止める働きはほとんど無い。

詰めるのは前と下の2つ: 解説はイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の空力学者テス・サクストン=フォックス。飛行機の表面のごく近くを流れる空気が専門で、ジャンプで詰める値は2つだと言う。前へ進む速さはできるだけ大きく、下へ落ちる速さはできるだけ小さく。平行姿勢は前者には効くが、後者にはほとんど効かない。

弾丸ではなく翼になる: 板をV字に開くと空気が体へ直接当たる面が増える。動画の言い方では弾丸ではなく翼になろうとしている。空気は体の形に沿って流れ、体と板が風に対して角度を持っていることが効く。車の窓から出した手は、まっすぐなら後ろへ押されるだけだが、角度をつけると上へ、そして後ろへ押される。それを全身でやっている。

笑われて始まったV字: 1980年代、スウェーデンのヤン・ボクレブは板を平行に保つのが苦手で、開いたときほど遠くへ跳べることに気づいた。シカゴ・トリビューン紙は「優雅に平行」から「子犬がプールへ飛び込むよう」になったと書き、彼は飛型点を落とす。1988年は78メートル跳んで85.4点。同じ距離を従来型で跳んだ米国のデニス・マグレーンは90.4点だった。

数字が形を入れ替えた: 1995年の Journal of Applied Biomechanics の論文が、計算機の模擬実験で従来型とV字を比べ、V字のほうがはるかに大きな上向きの力を生むと示した。滞空が延びれば距離も点も伸びる。1992年五輪では16歳のフィンランド、トニ・ニエミネンが122メートルで金。解説者は次の工夫として、先端を閉じて後ろを開く逆向きのV字も安定するのではないかと言う。