流線形なら必ず抵抗が小さいという思い込み

抵抗の誤解

形の名前ではなく剥離で決まる抵抗

よく言われること

先が丸く後ろが細い流線形にすれば、何であれ抵抗は小さくなると思われています。速い乗り物や魚の形をまねればよい、角ばった形は損、というふうに、見た目の輪郭だけで抵抗の大小が語られます。とがった先端ほど鋭く空気を切れるから良い、という言い方も一緒に出てきます。

実際はどうか

効くのは、後ろで流れが離れて大きな渦の跡ができている場合です。そこを直すと減り方は劇的で、同じ抵抗で比べたとき、流線形の柱は細い丸棒の十倍ほどの太さまで太らせられます。逆に霧粒や細かな砂のように小さくて遅いものでは、表面積が増えるぶん損になり、丸いままのほうが得です。

なぜ広まったか

教科書の絵が角と丸と涙型の三つ並びで描かれ、どんな速さと大きさの話かが省かれました。絵そのものは正しいのに、成り立つ範囲が書かれていません。実物では鏡や脚や継ぎ目のような出っ張りが抵抗の大半を占めることも多く、胴体だけ整えても効きません。後ろを伸ばしすぎても、こすれが増えて損に転じます。

どう言えば正しいか

「流線形だから小さい」ではなく後ろで流れが離れないから小さいと言います。狙っているのは形の名前ではなく剥離を遅らせることなので、向きがずれて流れが離れれば、同じ形のまま抵抗は数倍に跳ね上がります。先をとがらせる話でもなく、音より遅い流れで効くのは前より後ろの形です。細長いほど良いのでもなく、太さの三倍から四倍の長さが目安です。

解説動画(海外・英語): Understanding Aerodynamic Drag/The Efficient Engineer

抗力を生む2つの応力: 流れが物体に及ぼす力のうち、流れと同じ向きの成分が抗力、垂直な成分が揚力。抗力のもとになる応力は2つあり、粘性によって表面をなぞる向きに働くせん断応力が摩擦抗力を、表面に垂直な圧力の分布が圧力抗力(形状抗力)を生む。球のような鈍い物体では前後の圧力差が効き、浅い迎え角の翼型では表面の摩擦が主役になる。

はく離は80度から120度へ: 球の上面では、流れが加速する前半は圧力が下がり、減速に転じる後半は圧力が上がる。この逆向きの圧力勾配が強いと壁ぎわの流れが押し返され、表面から離れる。なめらかな球で層流なら約80度、境界層が乱流なら約120度まではく離が遅れ、圧力抗力は大きく下がる。ゴルフボールのディンプルや翼のボルテックスジェネレーターはこれを狙った突起。

流線形にすると摩擦が増える: 平板を流れに垂直に立てると圧力抗力は大きく、摩擦抗力はほぼゼロ。90度倒して流れに沿わせると圧力抗力は小さくなるが、今度は摩擦抗力が主役になる。圧力抗力が減れば摩擦抗力は増えるので両者は釣り合わせる必要があり、全抗力が最小の形は、必ずしも最も流線形の形ではないと動画は言い切る。

乱流は減らしも増やしもする: 乱流の境界層は層どうしの混ざりが多く、運動量が壁側へ運ばれるぶん強い逆圧力勾配にも耐えてはく離しにくい。ところが壁での速度の変わり方が急になるので、せん断応力は大きくなり摩擦抗力は増える。摩擦抗力を減らしたいなら層流をできるだけ長く保つという、逆向きの設計になる。

層流化とサメ肌の見積もり: 旅客機の主翼と尾翼で層流を保てれば全抗力を1割から1割5分減らせると見積もられているが、実現は難しい。サメのうろこにある流れの向きにそろった微細な溝を真似た表面を機体に貼ると全抗力が2%減るという研究もあり、燃料費の節約は業界規模で莫大。製造の難しさから実用化はまだ進んでいない。