ディンプルは空気をつかむという説明

抵抗の誤解

くぼみは空気をつかんではいない

よく言われること

球の表面のくぼみは空気をつかんで飛距離を伸ばす、と言われます。回転をかけたときに空気を引っかけるから大きく曲がる、くぼみに空気がたまって滑るように進む、という説明も、道具の解説や中継の合間によく出てきます。ざらざらのほうが空気を捕まえられるという言い方も同じ形です。

実際はどうか

空気はつかめません。くぼみは境界層という表面すれすれの薄い層をわざと乱すためのもので、乱れた層は勢いを外から取り込むぶん、球の背中側まで回り込めます。流れが離れる位置が後ろへずれて後ろの渦の跡が狭くなり、後ろから押し返す力が戻るので、抵抗は半分ほどに落ちます。飛距離は滑らかな球の二倍近くです。

なぜ広まったか

「グリップ」「食いつく」という手の感覚の言葉が、そのまま空気の話に当てられました。よく飛ぶことと大きく曲がることが同時に起きるので、原因もひとつだと見えてしまいます。実際は別々のはたらきが重なっていて、ゴルフボールのディンプルは抵抗を減らす側と、回転の効きを強める側の両方を助けています。

どう言えば正しいか

「つかむ」ではなく表面の近くをわざと乱していると言います。乱すとこすれは少し増えますが、前と後ろの押し合いの差が減る分のほうが大きく勝ちます。曲がるほうはマグヌス効果で、回転につれてはがれる位置が上下でずれ、後ろへ出る流れがそれた反作用として曲がります。粗さはその効きを強める側にまわります。

解説動画(海外・英語): What is a Boundary Layer - Laminar and Turbulent boundary layers explained/AirShaper

空気は面に貼りついている: 出発点はすべりなし条件です。表面がどれだけ滑らかでも空気は面に貼りつき、面の上での速さはゼロになります。もう一方の端にあるのが、物体から遠く離れたところの乱されていない空気の速さ。この二つの端のあいだで何が起きているのかを、平らな板の上の流れで見ていきます。

境界層はどこまでか: 前縁で貼りついた空気の層は、下流へ行くほど厚みを増していきます。この、まわりの乱されていない流れより遅く動いている範囲が境界層です。中では粘りの力が支配的で、外へ出ると粘りの効きはずっと小さくなり、流れの計算では無視されることさえあると説明されます。

層流の境界層と乱流の境界層: 境界層には二つの顔があります。層流では空気の層が面と平行にきれいに並んで進み、乱流では中が渦だらけになって、速さの変化があらゆる向きに現れます。外の空気が層流で、流れを乱す引き金が何も無ければ、境界層は層流として始まります。

切り替わる位置を決めるもの: 前縁から進んできた距離を代表の長さに取ると、板の上を下流へ行くほどレイノルズ数は増え続けます。それがある臨界の値を越えたところで、層流の境界層は乱流へ移ります。臨界の値は用途や形ごとに違い、どの場合にも通用する一つの数があるわけではありません。

だからくぼみが要る: 滑らかで流線形の飛行機では層流をできるだけ長く保ちたい。乱流の境界層はこすれの抗力を増やすうえ厚くなりやすく、翼が実質的に厚い形として効いて圧力による抗力まで押し上げるからです。逆に流線形でない物体ではわざと乱流へ転ばせたほうが得。乱流ははるかに大きな勢いを運び、流れがはがれる位置を後ろへずらします。ゴルフボールのくぼみも、選手のスーツや脚に貼るテープも、後ろに残す後流を小さくするためだと結んでいます。