失速は速度が足りないから起きるという誤解
飛ぶことの誤解
失速をエンジンや速度の不足と考える見方
よく言われること
「失速とは速さが足りなくなることだ。エンジンが弱ったり速度が落ちすぎたりすると翼は浮く力を失い、機体はそのまま落ちる。だから速く飛べば失速しない」。日本語の名前が失速なので遅さそのものが原因だと受け取られやすく、報道でもこの意味で使われ、速度計だけを見る構えにもつながります。
実際はどうか
失速を決めているのは速度ではなく、翼をどれだけ立てているか、つまり迎え角です。角度が限界を超えると上面の流れが表面から離れ(剥離)、揚力が急に減って抵抗が増えます。速度が高くても、急な引き起こしや旋回で角度を立てれば失速しますし、逆に角度さえ保てばゆっくりでも飛べます。着陸の直前は、速度を落としたまま角度を限界の手前に保って降りていて、速度計の針だけでは失速の近さは分かりません。
なぜ広まったか
水平に飛び続けるかぎり、遅さと角度がいつも一緒に動くからです。ゆっくり飛ぶには機首を上げるしかないので、経験の上では遅い=失速に見え、名前もそれを後押しします。実際に高度が落ちるのは、剥がれた流れが空気を下へ曲げる力を失い、その分の上向きの押し返しが減るためで、速度計の数字が原因ではありません。
どう言えば正しいか
「翼を流れに対して立てられる角度には上限があり、超えると上面の流れが剥がれて揚力が落ちます。これが失速です」。速度計ではなく角度の問題だと言い切り、回復は機首を下げて角度を戻すことだと続けると、操作まで一本につながります。速く飛ぶのは角度を小さく保つ手段だ、と足せば名前の紛らわしさも解けます。
解説動画: 2016-009:飛行機に作用する力と翼の関係を学ぼう 速度・迎え角と揚力・抗力の関係/ChannelONG
風洞で角度だけを変える: 翼の模型を風洞装置に置き、流速は毎秒20から40メートル、迎角は0から20度の範囲で変えながら揚力と抗力を測る実験が出てくる。毎秒40メートルの結果だけを取り出したグラフは横軸が迎角で、角度だけを動かしたときに何が起きるかを見ることになる。
14度付近で急に落ちる: 迎角を大きくしていくと揚力も抗力も一緒に増えていくが、迎角14度付近を境に揚力が急減し、抗力が急増する。これが失速と呼ばれる現象で、航空機の翼は失速しない迎角の範囲で使われている。流速を落としたわけではないのに、角度の軸の上で失速が現れる。
起きているのは剥離: 失速の中身は、翼のまわりの空気が面に沿えなくなること。シミュレーションの流線を比べると、失速した迎角では後ろ側の流れが翼から大きく浮き上がっていた。この沿わなくなる現象が剥離で、剥離した翼はもはや力を出せない。
速さは2乗で効くが別の話: 失速前の8度から14度の4つの迎角について、横軸を流速の2乗にして揚力を並べると値がきれいに乗る。つまり揚力は流速の2乗に比例する。速さは揚力の大きさを決める量で、動画が失速を見つけたのは角度の軸のほうだった。
離陸で角度を稼ぐ理由: 迎角が大きいほど揚力が大きくなるという性質があるので、離陸では補助の翼であるスラットやフラップを出し、機首を上げて迎角を大きくとる。巡航ではそれらをしまい、機体をほぼ水平に近い角度に戻す。剥離のしやすさは迎角のほかに形状によるところも大きく、翼の形しだいで失速を防げる。