ベルヌーイだけで飛ぶという説明
飛ぶことの誤解
揚力をベルヌーイの定理だけで説明する言い方
よく言われること
「飛行機が飛ぶのはベルヌーイの定理のためだ。翼の上は流れが速い、速い流れは圧力が低い、だから機体は上へ吸い上げられる。説明はこれで終わり」。定理の名前が一つ出るだけで済み、断面図と数字が一枚に収まるので、聞くほうも納得しやすく、解説記事でも講習でも最初に出てくる説明になっています。
実際はどうか
ベルヌーイの関係そのものは正しく、翼のまわりでも成り立ちます。ただしそれは同じ流れの筋の上で速さと圧力がどう入れ替わるかを述べたもので、なぜ上面が速くなるのかは何も言っていません。速さの分布は翼の形と迎え角、まわりの循環で決まります。薄い板でも背面飛行でも揚力は出ますし、式は結果を読む道具で、原因を作る装置ではありません。
なぜ広まったか
教える側にとって一本の式に着地できるのが強い利点だからです。循環や運動量まで持ち出すと話が長くなり、聞き手が先に離れます。短く終わる説明ほど広まりやすく、聞いた人がそのまま次の人へ渡していきます。そうして省かれたのが、翼が空気の運動量を下向きに変えるという部分で、それが無いと、力がどちらを向くかは式の中から出てきません。
どう言えば正しいか
「翼のまわりで流れが曲げられ、上が速く下が遅い分布ができます。ベルヌーイの式はその分布を圧力に翻訳する道具で、飛ぶ理由そのものではありません」。そのうえで「空気を下へ送った反動が機体を支えています」と足せば、速さの話と力の話が最後までつながります。順番を戻すだけなので、定理を捨てる必要はありませんし、覚え直しもほとんど要りません。
解説動画(海外・英語): How do airplanes actually fly? - Raymond Adkins/TED-Ed
アインシュタインが作った翼: 1917年、空間と時間の関係を説明したあとのアインシュタインが、飛行の不完全な理屈をもとに翼を設計した。曲がりを強くすれば揚力が増えると考えたのだが、通称猫の背中と呼ばれたその機体を飛ばしたテストパイロットは、はらんだアヒルのように揺れたと報告した。
同時に後縁へ着くという筋書き: いちばん広まっている誤りが等時間通過の説。上面は道のりが長いので、下を通る空気と同じ瞬間に後縁へ着くには速く進むしかなく、そこで圧力の低い場所ができる——という筋書きだ。動画はこれを徹底的に否定されていると断じる。上下に分かれた空気は再び出会う必要がなく、実際には上面の空気のほうがずっと早く後縁に着く。
空気を曲げるところから始まる: 翼が進むと表面に薄い層の空気が貼り付き、それがまわりの空気を連れていく。上へ回った空気は翼の前を回り込むときに向心加速度——急カーブを切る車の中で感じるあの力——を受け、下を行く空気より速くなる。この速さが増すことと上面の圧力が下がることは組みで現れる。
曲がりは揚力の原因ではない: 下面は向きも速さも変化が小さいため、下面の圧力が上面より高くなり、その差が上向きの力になる。差も力も速く飛ぶほど大きい。ただし動画は翼の曲がりそのものは揚力の原因ではないと念を押す。平らな板でも上向きに傾ければ揚力は出る——空気がそのまわりで曲がりさえすれば。
専門家でも説明は割れる: 曲げすぎ・傾けすぎは逆効果で、上面の流れが剥離して乱れる。翼から数メートル離れた空気の上下動や翼端渦も揚力に効く。圧力差が揚力を生む点は一致していても、その先の説明は人により、表面の振る舞いを重く見る人も空気を下へ曲げた反作用を挙げる人もいる。数式の上では争いがなく、ナビエ–ストークス方程式で扱える。