等時間通過の説

飛ぶことの誤解

翼の上下を空気が同時に通るという説明

よく言われること

「翼の前で二つに分かれた空気は、上面と下面をそれぞれ回ったあと後ろの縁で同時に出会う。上面はふくらんでいて道のりが長いので、遅れないように速く進むしかない。速い流れは圧力が低いから、下から押す力が勝って翼は持ち上がる」。翼の断面に矢印を二本引くだけで話が終わるため、入門書から資格試験まで広く載っていて、絵ごと覚えている人がとても多い説明です。

実際はどうか

流れを煙や細かい粒で可視化すると、上面を通った空気は下面を通った空気よりずっと早く後縁に着き、二度と出会いません。上面が速いこと自体は本当ですが、理由は同時に着くためではなく、翼が空気の向きを変えた結果です。道のりの差だけを根拠に計算した揚力は、実測の半分にも届かないことがあり、数が合わない説明になります。

なぜ広まったか

一枚の絵で完結できるからです。前で分かれて後ろで出会うと決めてしまえば、長さの比だけで速さが出て、速い側は圧力が低いとつなげば答えらしいものが並びます。省かれたのは、翼が空気を下向きに曲げ、曲げられた空気が同じ大きさで翼を上へ押し返すという力のやり取りで、そこを戻さない限り、力がどちらを向くかは決まりません。

どう言えば正しいか

「翼が過ぎたあと、空気は下向きに曲げられて流れます。その空気を下へ押した反動で、翼は上へ押されます。上面が速く圧力が低いのも同時に起きていますが、どちらかが原因ではありません」と言えば足ります。同時に出会うという一文だけを外し、矢印を後ろで下へ抜ける向きに描き直せば、手元の図解は残りをそのまま使えます。

解説動画: 飛行機の翼が揚力を生み出す仕組み/Math and Science

教わったとおりに描いてみる: 講師はまず、自分が飛行訓練で教わったとおりに翼を描く。平らな底面と丸い前縁。前で分かれた空気が後縁で同時に合流する、上面は道のりが長いから速く進むしかない、速い側は圧力が低い、だから下から押されて浮く。そのうえで、これは自分も間違って教わった説明で、単純で直感的だから広まっただけだと言う。

同時に着くという法則は無い: 分かれた流れが同時に再合流しなければならない物理法則は存在しないし、事実でもない、と何度も繰り返す。煙を流した風洞の映像を探してみろと勧め、実験では上面の空気が下面より約20%速く後ろへ抜けると言う。上が速いこと、上が低圧で下が高圧なこと、その差が揚力になること自体は正しいが、理由が別だと整理する。

平らな板の翼でも飛ぶ: 上面に湾曲の無い平らな木の板の翼を実際に投げ、それでも揚力が出て飛ぶことを見せる。ふくらみは必須条件ではない。ただし平板は前縁で流れが乱れて抗力が大きい。前を丸くすれば抗力が減り、後縁を尖らせれば渦を作らずに流れが剥がれる。実機の翼の形はその結果だと説明する。

速いから低圧、ではない: 翼は前方の空気を圧縮して高圧の領域を作る。一方、上面の後ろ側は相対風から隠れた影のような低い圧力の領域になる。この圧力差が上面の流れを加速している。上が速いからベルヌーイで低圧になるのではなく順序は逆で、そこが従来の教え方と混同されていると言い切る。

揚力は三つの成分の合計: 下面に当たった空気を下向きに跳ね返す反作用、上下の圧力差、そして上面に張り付いた流れが下へ曲げられるコアンダ効果の三つを挙げる。張り付く理由は表面で速度がゼロになる境界層で、突き詰めると分子どうしが電気的に引き合うロンドン分散力だと解説する。