速いところは必ず低圧という思い込み

圧力の誤解

ベルヌーイの条件を落とした標語

よく言われること

「流れが速いところは圧力が低い」。学校でそう習ったので、風でも水でも速い場所は必ず低圧だと考えます。扇風機の前は風が速いから低圧、蛇口から出た水も細くて速いから低圧、電車が来て体が引かれるのも速いから低圧。速さと圧力はいつでも裏返しという一行さえあれば、身の回りのできごとはたいてい説明できてしまう気がします。

実際はどうか

成り立つのは条件つきです。同じ流れの筋をたどっていくとき、流れが時間とともに変わらず、外から仕事も熱も加わらないときに限って、速くなった分だけ静圧が下がります。扇風機の吹き出しは風が速くても、まわりとほとんど同じ圧力です。羽根が仕事を足した先や、摩擦で熱に変わった先ではこの関係は崩れます。筋を横切って比べるときは、速さではなく流れの曲がり方が高い低いを決めます。

なぜ広まったか

分かりやすさのために、条件のほうが削られました。細い管で絞って測る実験は条件をきれいに満たすので、標語がよく当たる経験ばかりが積み上がります。ベルヌーイの式の手前に小さく置かれた「同じ流線に沿って」「粘りを無視できるとき」という但し書きは、試験に出ないぶん最初に落ちていきました。

どう言えば正しいか

「速いから低圧」ではなく、同じ筋をたどって速くなった分だけ静圧が下がった、と言います。速さと圧力は同時に起きている一組で、片方がもう片方の原因ではありません。低圧の理由を聞かれたら、その空気や水を何が押して加速させたのかまで戻ります。筋をまたいで比べるときは、曲がりの内側が低いと言い直します。

解説動画: 03-8. 流体力学 ピトー管 全圧・静圧 ベルヌーイの定理の演習/物理・数学を一から学びなおす-デルタ先生

圧力を三つに呼び分ける: ベルヌーイの式は単位体積あたりのエネルギー保存で、運動・高さ・圧力の三つの項でできている。全部を圧力の次元で読むと、運動の項が動圧、圧力の項が静圧、その和が全圧。高さの項には静水圧という名前が付くが、全圧には含めないと念を押す。

高さの単位で書き直す: 両辺を密度と重力加速度で割ると、三つの項がそろって高さの単位になる。速度ヘッド・高さヘッド・圧力ヘッドと呼び分け、その和の全ヘッドは一定。中身は圧力で書いた式とまったく同じで、単位系を読み替えただけ。同じ定理を圧力でも高さでも扱えるのが便利なところだと補足する。

よどみ点では流速がゼロ: 流れの中に丸い物体を置くと、当たった点で流線が上下に分かれる。流線は普通は分岐しないが、このよどみ点だけは別で、流速がゼロになる。上流とここで式を立てると運動の項が消え、残った圧力は上流の静圧より高い値、つまり全圧になる。

全圧管と静圧管の差: 流れに正面から向けた管は全圧を、横に開けた穴は静圧を測る。二つの液面の高さの差が動圧にあたり、そこから流速が逆算できる。両方を一本にまとめて一本で二役にしたのがピトー管の原理で、先端が全圧孔、側面が静圧孔になっている。

補正係数と飛行機での使い方: 実際の流体には摩擦があってエネルギーが失われるので、計算どおりの値にはならない。そこでピトー管係数を掛けて実測値に合わせる。飛行機では機首の先端に付ける。止まっている空気の中を機体が進むので、機体から見れば空気が流れてきて、その速さから飛行機の速度が分かる。