木桶でなければ本物の発酵にならない

道具と材料

木桶でなければ本物の発酵にならないは誤りで、家庭の仕込みを左右するのは温度・塩分・水分・酸素・衛生の管理です。

よく言われること

「昔ながらの木桶には菌が住んでいるから、プラスチックやホーローでは本当の味にならない」。

実際はどうか

木桶の内部に微生物が住みつき、蔵ごとの個性に関わることは指摘されています。ただしそれは「木桶でなければ発酵しない」という話ではありません。家庭の仕込みで結果を決めるのは、温度・塩分・水分・酸素・衛生の5つで、容器はその条件を保つための道具です。醸造科学のレビュー論文は、木製の樽の洗浄や殺菌が不十分だと野生酵母や酢酸菌が住みつき、風味を損なうと注意しています。ホーローやガラスは酸と塩に強く、洗って消毒しやすく、家庭では扱いやすい選択です。

なぜ広まったか

伝統的な製法の価値が語られるときに、道具そのものが目的のように扱われるためです。木桶が担っていた保温性や通気性といった機能は、別の形でも実現できます。国内のニュース報道は、桶職人が減って技術が途絶えかけている現状を繰り返し伝え、「これが無ければ本物が失われる」という切迫した語り口と伝統の継承を結びつけがちです。木桶で仕込む醤油の職人自身も、選択肢があっていいと海外の取材で語っています。

どう言えば正しいか

「木桶には固有の微生物環境があるが、家庭の発酵を左右するのは条件の管理。容器は条件を保てるものを選ぶ」と言うのが正しい整理です。

出典

  1. 動画・英語 Business Insider Why Only 1% Of Japan's Soy Sauce Is Made This Way | Still Standing | Business Insider
  2. 論文・英語 Kocijan T, Bossaert S, Van Boeckel G, Lievens B, Crauwels S(2021) Sanitation of wooden barrels for ageing beer – a review