音を聞き分ける
似た2つの音を、聞いて区別する入口。
音を出す練習の前に、まず聞いて区別する力を育てます。やり方は単純で、2つの語を続けて聞き、同じ語か違う語かを答えるだけです。学習者が「SAME」「DIFFERENT」の2枚のカードを用意し、読み上げられた語の対を聞いて正しいカードを挙げる練習を、全員が間違えなくなるまで繰り返します(Center for Applied Linguistics の教材)。対は別の単語どうし(最小対)のときと、同じ単語を2回読むときを混ぜ、「聞き取れた」思い込みを防ぎます。
Weeらが2019年に音声科学の国際会議で発表した実験では、日本語話者の成人37人を2つの群に分け、shipとsheepの母音を聞き分ける「同じか違うか」の訓練を1時間(30分を2回)行いました。方法は、母音の響き(フォルマント)が違う対と、響きは同じで長さだけ違う対を混ぜて聞かせ、同じか違うかを答えさせる形です。正答率は1日目の88.3%から2日目の93.6%まで、2回の訓練だけで有意に上がりました。母音の長さに頼る癖は、この1時間の訓練で英語の母語話者と同じ程度まで消えましたが、響きを手がかりにする力は母語話者に近づいただけで、追いつきはしませんでした。
この型の練習は、日本語話者が苦手とする子音の対にもそのまま使えます。L と R の混同・B と V の混同・S と TH の混同・/f/ と /h/ の混同・/s/ と /ʃ/ の混同は、どれも日本語には無い区別を要求する組です。Lively・Logan・Pisoni(1993)がLとRの聞き分けを日本語話者に訓練した実験では、複数の話者の声で訓練した群は正答率が上がり、知らない語や初めて聞く話者の声にも力が広がりましたが、1人の話者の声だけで訓練した群は、訓練で使った声でしか伸びませんでした。1人の先生の発音だけを繰り返し聞くより、複数の声の教材を混ぜるほうが、実際の会話で役立つ聞き分けにつながります。
聞き分けの練習は、微妙な音の違いが届く道具を選ぶと精度が上がります。有線イヤホン(カナル型)は耳の穴をふさいで外の音を遮り、子音の違いのような弱い音まで拾えます。自宅の生活音が気になるときは密閉型ヘッドホンで耳ごと覆うと集中しやすくなります。イヤホンジャックの無いスマホにはイヤホン変換アダプタをはさみます。骨伝導ヘッドホンは低い音域が弱く、細かい子音の差までは拾いにくいため、この練習には不向きです。
