口の形を見る
鏡で口と舌を確かめる最初の練習。
最初の練習は、鏡で自分の口と舌を見て、思っている形と実際の形のずれを確かめることです。発音の間違いは、自分では気づきにくいという特徴があります。Katz と Mehta(2015年)は、アメリカ英語を母語とする話者に、舌の動きを測る装置でリアルタイムに作った3D画像を見せながら、英語には無い新しい音を練習させました。見ながら練習した試行では、正確さが早く上がったと報告されています。鏡は3D画像ほど細かくは見えませんが、同じ「自分の動きを目で見る」効果を、道具なしで試せる最初の一歩です。
鏡は卓上ミラーを使うと両手が空くので、唇や舌を指で触って形を確かめながら練習できます。歌唱の指導を29年続けているVictoria(Healthy Vocal Technique)は、口の形を確認する練習には、全身を映す大きな鏡ではなく手持ちの鏡を勧めています。大きな鏡だとあごを上げて姿勢が変わり、口の周りに余分な力が入ってしまうためです。鏡だけでは見返しがきかないので、スマホスタンド・三脚でスマホを立てて同時に録画すると、あとから同じ瞬間を見返せます。口の中は鏡でも暗く見えにくいので、リングライトで正面から照らすと、唇の開き方や丸めの違いが見やすくなります。目指す形を知らずに鏡を見ても比べる基準がないので、発音記号ポスターで出す音の口の形を先に確認しておくと、鏡の中の自分の形と比べられます。
最初に鏡で比べる組は、/æ/と/ʌ/です。この2つは日本語話者がどちらも「ア」に置き換えやすい音ですが、あごの下がり方がはっきり違います。/æ/はあごを大きく下げて「ア」と「エ」の中間を出す音、/ʌ/はあごをわずかに下げるだけで力を抜いて出す音です。catと言うときとcupと言うときで、鏡の中のあごの下がり方が同じになっていないかを確かめると、この2つを区別できているかが分かります。
唇の開き方も、鏡でないと気づきにくい間違いです。/ɪ/は「イ」の口を作ってから力を抜いて少しだけ開く音で、唇を横に強く引っ張ると別の音に近づいてしまいます。鏡で唇の両端を見て、引きすぎていないかを確かめます。反対に/ʊ/は唇を軽くすぼめて丸めを保つ音で、丸めが足りないと間延びした「ウ」に近づきます。鏡で唇の丸みを確認しながら練習すると、この丸めの形が安定しやすくなります。
/ə/と/e/は、口の形がほとんど動かないので、鏡で見ても違いが分かりにくい音です。/ə/は口を半開きにしたまま力を抜くだけの音、/e/はあごをわずかに下げて短く止める音で、どちらも外から見える動きが小さくなります。この2つは、鏡で形を見るより、音を聞いて区別する次の練習に向いています。口の開き方を「広い・狭い」で済ませず、指何本分かで測ると比べやすくなります。日本語を教えるMeshclass日本語の手塚は、「あいうえお」を教えるときに、指を何本か口に当てて開き方の目安にする方法を使っています。英語の短母音を鏡で比べるときも、同じように指を当てて開き方の違いを数で確かめると、感覚だけに頼らずに比べられます。
鏡を正面から見るだけでは、あごが本当に下がっているかは分かりにくいことがあります。英語の発音を教える森山春香(SLIDE METHOD)は、鏡の前で顔を少し横に向け、横顔を見ながらあごの位置を確かめる方法を勧めています。日本語を話すときのあごの位置より少し斜め後ろに下がった位置を保つと、英語の発音がしやすくなると説明しています。正面と横顔の両方を鏡で見る習慣をつけると、/æ/のようにあごを大きく下げる音で、下がりが足りているかを確かめやすくなります。
