描く・撮るは生まれつき、という思い込みの整理。
絵が描ける人は生まれつき描ける、という思い込みは、描き始める前に手を止める理由になりやすい。研究から言えることは2つある。人による差は確かにある。そして、見て描く力には、練習で伸びる部分がはっきりある。
生まれつきの側から見る。英国の双子7,752組が4歳のときに描いた人物の絵を調べた研究では、得点の差のうち遺伝で説明できた分は約3割で、残りは、家庭の環境と、測り方の誤差を含む子どもそれぞれの経験の側に入った(Arden ら 2014)。ただし採点は、頭・目・手足などの部位が正しい数だけ描かれているかを数えるもので、形の正確さや絵の良さは測っていない。4歳の差がそのまま大人の描く力を決めるとは、この結果からは言えない。
練習の側から見る。米国のプラット・インスティテュートの基礎課程で、週8時間の描画の授業を受ける1年生42人を5か月追った研究では、目の前の物を見て描く課題の評価が上がった。授業では前半に二点透視の作図を、後半に明暗の対比の付け方を学んでいた。始めの得点が低かった学生ほど伸びが大きかった(Chamberlain ら 2019)。比べる組の無い調査だが、美術を学ぶ学生と学ばない学生を比べた別の研究でも、美術を学んだ側は人物を見て描く力が伸びた(Schlegel ら 2015)。伸びた中身の多くは、遠近法や明暗法のように名前の付いた、人に教えられる手順になっている。
描ける人と描けない人の違いは、目の性能より、見たものから何を選ぶかにある。大人の描き間違いを調べた研究をまとめた総説は、対象と描いている紙を正確に見ることが描く力の中心にあり、ただし描けるようになっても見え方そのものが根本から変わるわけではないと整理している。差を生むのは、目の前の景色をどこで区切るかと、頭の中にある決まった形に引っ張られるかどうかになる(Chamberlain と Wagemans 2016)。目を描くとき、目の前の目ではなく覚えている目の形を描いてしまうのが、後者の典型になる。
右脳で描く、という言い方もよく聞く。美術学生と美術以外の学生44人の脳の画像を調べた研究では、見て描く力と結びついたのは、左側の小脳と右側の前頭の一部で、細かい手の動きと、繰り返して身につく手続きの記憶に関わる場所だった(Chamberlain ら 2014)。左右どちらか片方の話ではなく、手と記憶の練習で育つ種類の力と読むほうが、結果に合う。
やりがちな失敗は、近道を探して練習を減らすことだ。手本を上下逆さにして写すと形が正確になる、という助言は美術の教え方として広まっているが、実験では逆さにすると位置関係の正確さがかえって下がった(Cohen と Earls 2010)。全体を確かめるために逆さにして見るのと、逆さのまま写すのは別の作業になる。
才能で決める前に、比べる材料を作る。1枚目は習作と割り切って日付を書いて残し、数か月あとに同じモチーフを同じ大きさで描いて並べる。狂っていた所が具体的に見え、次に練習する手順が決まる。撮る側も同じで、三分割法や日の丸構図のような型は、選び方を覚えれば使える道具になる。
出典
- 論文・英語 Arden R, Trzaskowski M, Garfield V, Plomin R(2014) Genes Influence Young Children's Human Figure Drawings and Their Association With Intelligence a Decade Later
- 論文・英語 Chamberlain R, Kozbelt A, Drake JE, Wagemans J(2019) Learning to see by learning to draw: A longitudinal analysis of the relationship between representational drawing training and visuospatial skill
- 論文・英語 Schlegel A, Alexander P, Fogelson SV, Li X, Lu Z, Kohler PJ, Riley E, Tse PU, Meng M(2015) The artist emerges: visual art learning alters neural structure and function
- 論文・英語 Chamberlain R, Wagemans J(2016) The genesis of errors in drawing
- 論文・英語 Chamberlain R, McManus IC, Brunswick N, Rankin Q, Riley H, Kanai R(2014) Drawing on the right side of the brain: a voxel-based morphometry analysis of observational drawing
- 論文・英語 Cohen DJ, Earls HA(2010) Inverting an image does not improve drawing accuracy





