湯を五感で確かめる

色・におい・肌ざわりを、入る前後に確かめる順番。

湯を確かめる順番は、浴室に入る前に決めておきます。分析書の掲示は脱衣所か浴室の入口にあり、浴室では紙もスマートフォンも手元に置けません。入口の掲示で泉質名と注意書きに目を通し、浴室では目・鼻・肌の順に確かめ、上がってから休憩所で掲示と突き合わせます。三段に分けておけば、浴室で思い出すことは三つだけになります。

目で見るのは、底が見えるかどうかと、色の二つです。湯口の近くと離れた縁で見比べ、最後に手のひらにすくいます。底まで見通せて色もなければ無色澄明、白く曇って底が消えれば乳白色のにごり、澄んだまま褐色で手のひらでは薄い黄褐色に戻れば黒褐色の湯です。赤茶色に濁って底に沈むものがあれば赤褐色のにごりに当たります。日本温泉協会の英語の解説は、含鉄泉の湯が空気に触れて赤く変わり、含よう素泉の湯は置くと黄色くなると書いています。業界団体の資料ですが、よう素の黄ばみのように時間が作る色があることは、湯口と縁で濃さが違う理由になります。神奈川県温泉地学研究所は、茶褐色に着色した湯では有機物の項目を分析書に追加していると説明しており、色は欄の数にも表れます。

鼻は、浴室の戸を開けた所でいちばんよく働きます。湯面に顔を寄せるよりも、立ちのぼる湯気の中のほうが分かることがあります。卵の腐ったようなにおいは硫化水素によるものだと日本温泉協会は書いており、これが硫化水素臭です。薬に似た乾いたにおいはよう素臭、手で湯に触れた後に立つ金属のにおいは鉄のにおいで、湯よりも自分の手の側から届きます。環境省が2006年に定めた温泉利用施設の設備構造の基準は、総硫黄を1kg中に2mg以上含む温泉を対象にしています。浴室の空気中の硫化水素は、湯面の上10cmで20ppm、床の上70cmで10ppmを超えないこととされています。換気孔などは2か所以上で、うち1か所は床面と同じ高さに設けるとあります。隣の脱衣室についても、硫化水素が滞留しないよう換気に配慮するとあります。歯科の研究チームは、硫化水素の検知管が標準ガスで約200ppbを検出でき、これが人の嗅覚閾値に当たると書いています。基準の値はその50倍以上で、においに気づくことが異常の合図になるわけではありません。鼻で濃さは測れないので、湯気抜きと換気の造りを見るほうが確かです。

肌で分かることは、かけ湯のときにまとめて確かめられます。熱さと、滑るか引っかかるかの二つです。消費者庁は、高齢者の入浴中の事故を防ぐ目安として、湯温は41度以下、つかる時間は10分までを挙げています。温泉施設に限った話ではありませんが、熱いと感じた湯で長湯をしない理由にはなります。手足をこすって滑ればぬるぬる感、きゅっと引っかかればきしむ肌ざわりの側です。どちらも分析書には欄が無く、pHの高さだけで決まるものでもないので、滑る湯をアルカリ性と決めつけないでおきます。この言い方の出どころは、ぬるつく湯はアルカリ性?にまとめてあります。少し浸かってちりちり刺せばぴりぴりする刺激、じっとしていて腕に細かい泡が付けば肌につく泡です。

上がる前に、湯口と浴槽の面をもう一度見ます。湯の中を漂う薄い片は湯の花、湯口に盛り上がった白く硬いこぶは湯口の石灰華、面に付いた赤茶の膜は鉄の赤い付着です。休憩所で掲示と突き合わせると、見たものと書かれている語がずれていることに気づきます。掲示の値は湧出地で採った湯のもので、分析終了年月日の時点の姿だからです。初めのうちに起きやすい失敗は、色の濃さを湯の濃さと読むこと、においの強さを成分の量と読むこと、気づいた違いを施設の優劣に置き換えることです。確かめた語を記録に残していけば、次の湯で比べる相手ができます。

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