排水口の渦

渦と後流

見られる場所: 家の中 / 大きさ: 手のひら

排水口の渦は、栓を抜いた水が中心へ集まって速く回りだす動き。

現象の中身

浴槽や洗面台の栓を抜くと、はじめは静かに落ちていた水がやがて中心で回りはじめ、細い渦になって空気の筋が下まで届きます。回り出すまでの時間は一定ではなく、最初から回っていることもあります。向きも日によって変わり、同じ流しでも入れ替わります。水が深いほど筋ははっきり立ちます。

起きる理由

水は最初からごくわずかに回っています。栓を抜くと水は中心へ集まり、回りながら半径が縮むと、回転の勢いを保つぶんだけ速く回ります。腕を縮めた回転が速くなるのと同じです。回る水を曲げ続けるには中心へ向かう力が要り、それを作るのが外側との圧力の差です。中心ほど圧力が低いことと速く回ることは同時のことで、水面はまわりの大気に押されてへこみます。渦が吸っているのではありません。

見られる場面

浴槽、洗面台、じょうごから落ちる水。ペットボトルの水を回してから逆さにすると空気の筋が通り、回さないときよりずっと速く空になります。ダムの取水口や田んぼの排水口にも同じ渦ができ、空気を巻き込むと機械に悪いので渦を消す板が付けられます。計算では、渦を抑える板や輪を付けると渦の強さが8割近くまで下がったという報告もあります。家での見え方は排水口に立つ渦へ。

勘違いしやすいところ

地球の自転で向きが決まるとよく言われますが、家庭の流しでは栓の形や注ぎ方の名残のほうがずっと強く効きます。丸一日ほど静置して対称に作った大きな水槽で、ようやく自転の影響が見えたという実験があり、日常の観察で確かめられるものではありません。排水口が上下左右で対称な装置を理論と計算で調べると、渦は自転の向きに沿うと示されますが、家庭の排水口はこの対称から外れているため働きません。向きを当てる遊びは、当たっても偶然です。

出典

  1. 論文・英語 Jiro Mizushima, Kazuki Abe, Naoto Yokoyama(2014) Bathtub vortex induced by instability
  2. 論文・英語 Abdulaziz S. Alaboodi, Zahid Hussain, Saqlain Abbas, Masood ur Rehman, Asim Zulfiqar(2024) Mitigating surface vortex formation in pump sump intakes through anti-vortex devices: a comprehensive CFD study
  3. 動画・英語 Veritasium Does Water Swirl the Other Way in the Southern Hemisphere?

解説動画(海外・英語): Does Water Swirl the Other Way in the Southern Hemisphere?/Veritasium

家の洗面台では決まらない: 半球が違えば流れの回る向きも逆になるのかを、赤道をはさんでほぼ同じ緯度にあるシドニーとアラバマの2人が時刻を合わせて確かめた。ふつうの便器は内側についた噴き出し口の向きで回り方が決まるし、同じ洗面台でもあるときは一方に、あるときは逆に流れる。容器の水には必ず何かしらの回転が残っていて、そちらが勝ってしまう。

24時間置いてから抜く: そこで直径1.5メートルほどの子ども用プールを使う。わざと出てほしい向きと逆回りに水を張り、24時間置いて動きを消す。栓を引き抜くと手が回転を与えてしまうので、底につけたバルブを開けて抜き、両半球で秒を合わせて始める。

色水で見えた回り方: 抜き始めてから数分は、水面を見ても何も起きていない。そこで四方に食紅を落とすと、アラバマ側は反時計回り、シドニー側は時計回りに回り出した。どちらも水を張ったときと逆の向きで、竜巻のような渦がはっきり立っている。

極に近い側は遅れる: プールは地球といっしょに1日に1回極のまわりを回っている。極から遠い側ほど1日に進む距離が長く、東へ向かう速さが大きい。栓を開けて水が中心へ集まると、赤道側の水は排水口を追い越し、極側の水は遅れて後ろに残る。その差が回転になる。

台風も同じ理屈で回る: ここまで手間をかけてやっと見える程度なので、浴槽や便器では他の回転に埋もれて見えない。同じ理屈で台風は北半球で反時計回り、南半球の熱帯低気圧は時計回りに回る。中心は気圧が低く、まわりの気圧の高い空気が中心へ流れ込んでいく。