台所で楽しむ

蛇口・鍋・シンクで起きる流れを見る。

台所で最初に見るのは蛇口だ。手元のハンドルで開きを一段ずつ変えられるので、ほかの条件をそろえたまま比べられる。弱くひねって、水がまっすぐ落ちる状態から始める。武蔵野大学の阿部修治は、水流が下へ行くほど細くなることを写真で示し、重力で落下の速さが増すためだと説明する。同じ解説は、重力の効果だけを入れた単純な模型で水流の半径を出し、実際の形と比較的よく合うと述べる。ただし蛇口のすぐ下では表面張力や金属管とのぬれも絡み、模型とのずれが出るとも書く(蛇口の水が細くなる・ぬれと接触角)。

次は絞る向きへ一段動かす。細くしすぎると、水の柱は途中から切れて滴になる。自由表面の流れを扱った2014年の学位論文も、蛇口を開けたときの水の噴流が、表面張力によって自然に滴の列へ断裂すると書く(表面張力・液滴の分裂)。柱から滴へ変わると、受ける面に当たる音も変わる(水の落ちる音が変わる)。滴の間隔がそろわないことがあるが、測り方の失敗とは限らない。2000年の理論研究は、ぶら下がった滴の安定性から作った写像で滴りの乱れを模型化し、予測は実験と定性的に合うと要旨で述べている。

開きを大きくすると、透き通った筋が乱れた見え方へ変わる。沖縄科学技術大学院大学の流体力学ユニットは、蛇口からの流れを、低速で規則的な層流、高速で無秩序な乱流、両方が混ざる遷移流に分けて説明する。同じユニットは、長さ20メートル・直径2.5センチのガラス管に水を流し、レーザードップラー速度計で渦の速さを測った。小さな渦のエネルギーの配分は乱流では普遍とされてきたが、遷移流でもその形に一致したと報告している。台所の蛇口では、この3つの見え方を開きの段で行き来できる。

目を落ちた先へ移す。シンクの底では水が薄い円盤に広がり、縁で急に盛り上がる。高校の自然科学部は、この円形の盛り上がりがダムなどで見られる跳水と同じ仕組みで説明できるかを、実験で確かめている。同じ部員は、円の内と外の水深を定規で測り、内側は約0.5ミリ、外側は約3.0ミリだったとしている。深さが6倍になるぶん速さは6分の1になると計算し、直径9センチの円で毎秒36.3ミリと見積もっている。盛り上がる位置は開きと落ちる高さで動くので、変えるのはどちらか一方だけにする。

水を止めたあとも見るものが残る。先の学位論文は、薄い水の膜に穴が開いて乾いた面が広がる乾き方を扱い、テフロン鍋を水で洗うときにも同じ穴ができると書く。乾いた側の水は縁に集まり、盛り上がった輪になるとも述べる。水位が下がるときには、排水口に渦が立つ(排水口に立つ渦)。

鍋とコップは、蛇口とは別の見方になる。火にかけた鍋の中の動き、椀に残る味噌の模様、コーヒーに落ちた牛乳の広がりは、どれも器の中の流れだ(鍋の中の対流・味噌汁にできる模様・コーヒーに落としたミルク)。同じ学位論文は、水面の中央にアルコールを静かに置くと、表面張力の差によって水の表面が中心から外へ速く動くと書く(マランゴニ効果)。ワイングラスでは、縁の接触線でアルコールが水より速く蒸発し、そこで水が濃くなって表面張力が局所的に高まり、液が壁を登って涙の形に集まるとある(ワインの涙)。

混ぜる道具でも流れは変えられる。America's Test Kitchen は、泡立て器を左右に振る動かし方のほうが剪断の力が大きく、油を細かい滴に分けて酢の中に留まらせると説明する。かき混ぜるだけでは油と酢は分かれたままだったとも述べる。生クリームでは、剪断の力が脂肪を囲むタンパク質をほどき、ほどけたタンパク質が気泡を包む膜になるという(界面活性剤のはたらき)。同チャンネルの試しでは、左右に振る動かし方で生クリームは4分、卵白は5分で硬い泡になった。

やりがちな失敗は3つある。1つ目は、開きと受ける器と目の高さを一度に変えてしまうことだ。2つ目は、泡の入った水流を乱れた流れと読むこと。米国シアトル周辺の水道事業者が集まる団体は、蛇口の先のエアレーターが水に空気を混ぜ、飛沫を抑えると書く。節水を勧める立場の資料だが、気泡のために透けて見えない、という見分け方はそのまま使える。3つ目は、ハンドルの開きを水の量そのものと考えることだ。コロラド大学ボルダー校の工学教材は、流れる量を、内と外の圧力の差を開口部の抵抗で割ったものとして説明する。ハンドルのねじがゴムのストッパーを開口部から離し、抵抗が下がるので水が出る、という順で書いてある。

この節に出てくる図鑑の項目

出典