鳥と自分を守る
鳥への負担と、野外での危険の全体像。
野鳥を見るときに守るものは、鳥の暮らしと自分の体の二つです。先に決めるのは、鳥に近づかない、鳥を呼び寄せない、鳥を持ち帰らない、見た場所を広めない、の四つで、そのうえで野外の危険に備えます。四つの決まりは、鳥を見たい気持ちが強い日ほど破りやすくなります。
鳥への負担がいちばん大きいのは、子育て中の巣への接近です。営巣中や育雛中の鳥に人が近づくと、親鳥が「この場所は危険」と判断して巣や抱卵を放棄したり、早すぎる巣立ちが起きたりするおそれがあります。親鳥が巣を離れたすきに、卵やヒナが捕食者や低温にさらされることもあります(日本野鳥の会、2022年の初心者向けのガイドライン)。巣や巣立ちビナに出会ったら、すみやかにその場を離れます。巣に近寄ることも、地面のヒナを巣立ちビナを拾う形で連れ帰ることも、助けにはなりません。
呼び寄せる行為は、鳥の時間を使わせます。バードウォッチャーが録音を流す場面をまねたエクアドルの実験では、5分間さえずりを流したあと、ミソサザイ科の1種は2羽で鳴き交わす歌を増やしました。5つの群れに毎日5分ずつ20日流すと、反応は12日目にはほとんど見えなくなりました(Harris と Haskell 2013)。反応が薄れたことが負担の無さを意味するのかは、この実験からは分かりません。米国のバードウォッチングの倫理規定は、録音などの音で鳥を呼ぶ使い方を限るよう求め、人の多い場所や、その土地で珍しい種では特に控えるとしています(American Birding Association)。声を流して呼ぶことも餌でおびき寄せることも、鳥が自分から出てくるのを待つ見方に置き換えます。
持ち帰るのは法律の問題でもあります。野生の鳥の捕獲と卵の採取は、鳥獣保護管理法で原則として禁止されていて、違法な捕獲や飼育には罰則があります(千葉県)。野鳥を飼うことは、どれほど身近な種でもできません。
場所を広める害は、見た後に起きます。珍しい鳥の写真を公園名と一緒にSNSに載せて大勢が押し寄せ、公園の利用者に迷惑をかけた事例があります。珍しい渡り鳥の画像や情報は、その鳥が撮影地からいなくなってから公開するよう勧められています(日本野鳥の会)。見つけたその日に広める投稿を避け、写真の位置情報つきで公開する設定も外しておきます。
自分の体を守る準備も同じ日に済ませます。草むらや藪に入るときは肌の露出を少なくし、マダニに吸血されたら無理に引き抜かずに皮膚科などで取ってもらいます(厚生労働省)。死んだ野鳥は素手で触りません。鳥インフルエンザのウイルスは野鳥観察のような通常の接し方では人に感染しないと考えられていて、ふんなどに触れた後は手洗いとうがいをすれば過度に心配する必要はないとされています。カラス・ハト・スズメのような小さめの鳥が1〜2羽死んでいるだけなら検査の対象外で、それ以外は市役所などに問い合わせます(兵庫県)。素手で拾い上げる前に、窓口へ連絡するかを決めます。
やりがちな失敗は三つあります。よく撮りたい一心で巣の近くに一歩詰めること、早く見たいからと音を流すこと、見つけた喜びでその日のうちに場所を投稿することです。鳥が逃げずにいつもどおり過ごしている姿を最後まで見届けられた日が、四つの決まりを守れた日です。
