最初に覚える音

日本語に近い音から始める順番。

英語の音には、日本語の音にすでに近い音と、日本語にまったく無い音が混ざっていて、必要な練習の種類も違います。英語を母語とする成人が中国語の母音を発音した実験では、日本語の母音に近い母音の正確さは発音のばらつきの小ささだけで決まり、日本語に無い新奇な母音の正確さは舌の位置を感じ取る体性感覚の鋭さだけで決まると報告されました(Liほか、2026年)。似ている音と新しい音では、鍛える力そのものが別だということです。最初の練習は、日本語に近い音を先に、日本語に無い音をあとに置く順番で進めます。

最初に選ぶのは、/p/と/b/と/h/です。パ行・バ行・ハ行はもともと日本語にある音で、口の形を新しく作る必要がありません。/p/と/b/は閉じた唇をどれだけ強い息で開けるかだけの違いで、/h/も日本語のハ行とほぼ同じ作り方です。口の形を新しく覚えずに「できた」という感覚を得られるので、英語の音に慣れる最初の一歩に向いています。

短母音の中では、/e/を早い段階に置きます。bedのeは日本語の「エ」とほぼ同じ高さで発音され、大きく外れることが少ない音です。一方、/æ/と/ʌ/は、どちらも日本語話者が同じ「ア」に置き換えやすい音どうしで、単独で練習するよりも2つを並べて聞き比べる段階まで後回しにしたほうが身につきます。/e/で短く切る母音の感覚をつかんでから、あごの下げ方だけが違う2つの母音に進むと、違いに集中しやすくなります。

日本語にまったく無い音は、さらにあとに回します。/ə/は弱く読む音節だけに現れる音で、日本語には弱い母音という考え方自体が無いため、新しい感覚から作る必要があります。/θ/と/ð/も、舌を歯で挟む動きそのものが日本語の子音には無く、口の形を一から覚える音です。ハンガリー語話者にポルトガル語の母音の対比を聞き分ける訓練をした実験では、6つの対比のうち3つは改善しましたが、最も難しい対比は訓練をしても成績が低いままでした(Tavaresほか、2025年)。聞き分けの訓練だけでは追いつかない音が残ることを前提に、新しい音には他の音より多くの練習時間を割ります。

やりがちな失敗は、教材の文字の並び順をそのまま進めることです。ある教材は1回目の授業でAとBの文字を、10回目の授業でSとTの文字を教えており、アルファベット順に2文字ずつ進んでいます。Aの例に挙げる語hatの母音は/æ/で、短母音の練習を何もしていない最初の授業にこの音が出てきます。/æ/は日本語話者が「ア」に置き換えやすい母音の一つで、最初の語でいきなりつまずく原因になりえます。アルファベット順ではなく、日本語の音との近さで順番を組み直すと、最初の成功体験を得やすくなります。

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