温泉めぐりの全体像
選ぶ・入る・読む・比べるの4つがどうつながるかを一望する。
温泉めぐりは、選ぶ・入る・読む・比べるという四つの場面が一本の線でつながっています。出発点になるのは、温泉法が定める基準で、湧出口の温度が25℃以上か、指定された19種類の成分のうち1つが一定量以上含まれていれば温泉に当たります(神奈川県温泉地学研究所)。この基準を満たす湯のうち、療養泉としての基準をさらに満たすものに、掲示用の泉質名が付きます。選ぶ段では、この掲示用泉質名がいちばん手がかりになります。名前は10種類あり、どの成分がどれだけ含まれているかという基準の違いで分かれます(日本温泉協会)。塩化物泉のように主成分の種類で付く名前もあれば、二酸化炭素泉や含鉄泉のように溶けた気体や特定の成分の量だけで付く名前もあります。最初に掲示の泉質名を読むと、浴室に入る前に湯の性質をおおまかにつかめます。名前を確かめずに色やにおいの印象だけで選ぶと、単純温泉のように成分が少なく無色に近い湯を見落としやすくなります。
入る段は、脱衣所で服を脱いでから浴室に入り、湯に浸かる前にかけ湯で体を流す順番が軸になります。洗う場面では、シャワーや洗い場で体を洗い終えてから浴槽に入るという洗い場と浴槽の使い分けを守ると、浴槽の湯に石けんが入りません。消費者庁は、冬の家庭の浴槽での溺水死亡が65歳以上の高齢者で12月・1月に多いとして、湯温41度以下・つかる時間10分までを目安に挙げています(消費者庁、2024年)。この目安は温泉施設の統計ではなく家庭の浴槽が中心ですが、入浴の温度と時間を決めるときの手がかりになります。のぼせを避けるには休憩をはさみ、飲酒と入浴が示すとおり酒を飲んだ直後の長湯は避け、入浴前後の水分補給で失う水分を補います。上がるときは出るときのすすぎの手順どおり洗い場でシャワーを浴び、絞ったタオルの水滴を浴槽へ入れずに脱衣所へ戻ります。かけ湯を省いて湯に入ると、身体を湯の温度に慣らす間合いを失い、他の入浴者と分け合う湯を洗わずに汚してしまいます。
読む段では、脱衣所や入口に掲示された泉質名と注意書きを、浴室に入る前と出たあとの二度確かめます。掲示の泉質名は、現場でスマートフォンを構えて調べるものではなく、休憩所で読み返す本として扱うほうが無理がありません。名前だけを覚えて終えるのではなく、酸性泉のように肌への刺激が書かれている泉質ほど、禁忌症や注意書きの欄まで読む価値があります。
比べる段は、違う泉質の湯に続けて入り、名前が示す違いを自分の感覚と結びつける段階です。含鉄泉は湧いた直後は無色でも時間がたつと赤褐色に変わり、放射能泉は目にも肌にも現れないラドンで名前が付くため、同じ無色の湯でも由来はまったく違います。泉質名は決め手になる成分の違いを示すだけで、濃さや色の濃淡が効果の強さを表すわけではないため、比べる楽しみを優劣の判定に変えないことが肝心です。
